2025年3月、私たちCBDライブラリーは、ヨーロッパの重要な大麻文化の中心地の一つ、スペインを訪れました。
なぜなら、今年のバルセロナでは、現在、最も活気がある大麻コミュニティーの一つ『ICBC(国際カンナビスビジネス会議)』と、ヨーロッパ最大規模の国際大麻展示会の『スパンナビス』が同時開催されたからです。
大麻の国際カンナビスビジネス会議『ICBC』は、前年から取り上げています。
それでは、今年の『ICBC 2025バルセロナ』での会議の様子をについて取り上げていきましょう。
ICBCとは
『ICBC』とは「International Cannabis Business Conference」の略で、B2B(事業者間取引)向けの、格式高い国際カンナビスビジネス会議です。
▶︎ 『ICBC』公式サイト
2014年以降、毎年ヨーロッパ各地で行われており、研究発表や議論、ビジネス交流会、コネクションづくりに力を入れています。
今年はドイツのベルリン、スロベニア、そしてバルセロナの3カ所で行われる予定です。
会議内容
それでは、朝9時半から夕方まで行われた会議内容を、大まかに振り返っていきます。
『ICBC2025バルセロナ』概要
まずは、プロデューサーのアレックス・ロジャース(Alex Rogers)氏が、プレゼンテーションやインタビューや講演者を含む会議スケジュールの概要を説明してくれます。
キャプテンである彼は、会社で言えば社長のような存在です。
そんな彼が、こういった大事なイベント前後のスピーチや、参加者全員と顔合わせを毎年数回欠かさず行うことだけでも大変なことです。
しかし注目すべきはそこではありません。
興味深いのは、大麻業界では、彼のようなトップクラスの人物が、展示会の準備段階から、メールやSNSで参加者と直接やり取りをし、事務的な調整まで行っている点です。
すべての会議や展示会の参加者は、初めからトップとコンタクトが取れることで、コネクションやモチベーション向上に一役買っているように思われます。
これは、ヨーロッパの他の展示会、たとえば『カンナフェス』や『EIHA(欧州産業用大麻協会)』や他のほとんどの場所でも言えることです。
マニフェスト
続いて登壇したのは、『NEW HOLLAND GROUP』で大麻業界のコンサルタントを務める、ジェイミー・L・ピアソン(Jamie L Pearson)氏。
▶︎ Jamie L PearsonのXアカウント
彼女は、今回のカンファレンスにおけるマニフェストを発表しました。
ピアソン氏は、現在グローバルに注目されている「デジタル・インクルージョン(デジタル包摂)」に対し、「カンナビス・インクルージョン(大麻包摂)」という視点が国際社会ではいまだ十分に取り上げられていない現状を訴えます。
彼女の主張はこうです。
”カンナビス”と”ヘンプ”は同じ植物であり、薬、肥料、食品、プラスチック、コンクリートなど多様なソリューションの可能性を持っているにも関わらず、いまだ社会のスティグマによって正当に評価されていない。
一部の医者や文化人、数人の政治家などはその価値に気づき始めているものの、運送問題や摂取に関する厳しい規制が、その拡がりに歯止めをかけていると指摘しました。
その後もピアソン氏は、大麻合法化に向けた多角的な視点に言及していきます。
医療的側面、産業用大麻が持つサスティナビリティの可能性、さらには大麻を理由に犯罪者のレッテルを貼られた人々を解放する必要性についても触れました。
また、大麻事業者や関係者が政府へ対してのロビー活動をもっと行うべきだと強調します。
大麻と社会を結ぶためのフレームワーク、責任ある制度設計、官民の協力、教育、サプライチェーンの構築。
これらをつくる共同体をつくろうとその場にいる全員を鼓舞しました。
彼女のキャッチフレーズは ”Do not wait for the change, be that change(変化を待つのではなく、あなたがその変化になることだ)” です。
壇上からの熱のこもったスピーチに、筆者は深く感動しながらも、同時に疑心的な思いもあったのも正直なところです。
というのも、彼女のスピーチの裏に感じられたのは、どこか“アメリカ的マインドセット”とも言えるスケールの大きさでした。
「モロッコ、ジャマイカ、バルセロナといった地域から、質の高い大麻を共有し合い、グローバルなサプライチェーンを築こう」
そう語る彼女のビジョンには、利権や覇権争い、マネーゲームの加速といった雰囲気を予兆しているからでした。
ともあれ、彼女の訴える姿勢や話し方は、さながらジャック・ヘラーの「勝利のための麻」のように力強く、拍手喝采のスピーチとなりました。
ヨーロッパにおける医療用大麻のサプライチェーン
次に拝聴したのは、「The European Medical Cannabis Supply Chain(ヨーロッパの医療用大麻サプライチェーン)」をテーマとした、パネルディスカッションです。
パネリストたちは、製品カテゴリ、生産現場のボトルネック、地域格差に焦点を当てて、ヨーロッパのサプライチェーンの現状について議論を交わしました。
また、規制や物流の課題を乗り越えるための戦略や、サプライチェーン最適化に向けた革新的なアプローチについても検討が行われました。
なかでも多くの時間を割いて発言していたのが、『キロン・ヨーロッパ(KHIRON EUROPE)』のファウンダー、フランツィスカ・カッターバッハ(Franziska Katterbach)氏です。
▶︎ 『キロン・ヨーロッパ』公式サイト
彼女は、ディストリビューターとして、レーベルブランドとして、信頼性と透明性が何より重要であることを語っていました。
たとえば、GMP(Good Manufacturing Practice=医薬品の製造および品質管理基準)や、GACP(Good Agricultural and Collection Practice=薬用植物の優良農業・採集規範)、さらにオーガニック認証や放射能検査など、こうした品質管理の認証がなければ、どれだけ価格が安くとも、いずれ市場から淘汰されていくのは時間の問題だと言います。
現在、世界全体で大麻ユーザーはわずか2%。
裏を返せば、これはまだまだ需要の伸びしろが大きいことを示しています。
患者ではない人はいない。
つまりすべての人が何か持病や問題を抱えている現代において、CBD、CBGやTHCの需要は益々増えると共に、品質と信用性がいかにすべての人の判断基準になって行くだろうことを予兆します。
また、ドイツでは医療用大麻の解禁が進み、現在ではその内70〜75%は、オンライン診療を通じて、医療大麻が処方される現状も紹介されました。
ですので、ドイツの大麻業界ではほとんどの製品が医療用途に対応した品質水準に達しつつあります。
また、たとえばカナダの医療用大麻では、THCの摂取は「花(乾燥大麻)」と「エクストラクト(抽出製品)」でちょうど50:50の割合だと言います。
このような背景から、ガムやグミなどの加工製品を医療用として扱うには、明確なスタンダード基準が必要とのです。
ドイツの新政府
さて、次に登壇したのは『ICBC』では毎年おなじみの、国際大麻政策および業界専門家のピーター・ホンベルク(Peter Homberg)氏です。
ドイツを拠点に活動する彼は、「ドイツの新政府」というタイトルのもと、現在世界で注目されているドイツの新政権が、どのようにドイツの大麻市場への影響を与えるかについて話しました。
2025年2月23日、ドイツは新政府を樹立し、『キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)』が、ショルツ首相を率いる『ドイツ社会民主党(SPD)』に勝利しました。
この政権交代の背景には、SPD政権の混乱、極右政党『AfD』の移民・難民の管理強化、産業経済の低迷といった要因が重なり、有権者の支持が与党から離れたことがあると分析されています。
2025年3月8日には、CDU/CSUとSPDは共同で「立場表明書(Position paper)」を発表し、今後10年間で500億ユーロのインフラ投資を含む、エネルギー、デジタル、イノベーションなどの経済政策、労働・社会保障問題、移民政策、そして医療・教育制度といった幅広いテーマについて、両党の基本的な方針を示しました。
しかしその中で、大麻に関する記載は一切ありませんでした。
ホンベルグ氏はこの点について、次のような懸念を示しました。
「合法化しつつある大麻法案は、また反対の方向へ向かう可能性が十分あること」「SPDからの意見は反映されない」「医療大麻など、価格面が引き上げられる」ことなど、政党のPosition Paper(立場表明書)には大麻に対して何も書かれていないことから、大麻はむしろ薬物指定に返り咲いてしまうのではないか?と。
これに対して、『ドイツ大麻法案(Cannabis Act=Cannabisgesetz, CanG= The German cannabis control bill の略) 』は、2025年〜2026年までの様子見期間を設ける方向が草案に記載されており、法的な行方は依然として不透明な状況です。
▶︎ Cannabis Act (Germany)
このような状況により、ドイツの大麻マーケットは、今後しばらく凍結状態になることが予想されています。
法律を決められる者が、正義となってしまうのが現在の社会。
ドイツでもアメリカでもそして日本でも、世界中で政権が変われば一気に業界の方向転換が起きてしまいます。
積み上げてきた歩みが振り出しに戻らないよう、業界全体が力を合わせて戦っていくしかないとのことです。
それでは、国際カンナビスビジネス会議『ICBC2025バルセロナ』~後編に続きます。
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