2025年4月にCBD(カンナビジオール)やCBG(カンナビゲロール)を包括してガイドラインを出したばかりの『全国大麻商工業協議会(全麻協)』。
その後、6月6日、CBN(カンナビノール)食品のガイドラインを発表しました。
これは、CBD等を含む主ガイドラインの補足的枠組みとして、CBNに特化した自主的規範です。
CBNとは何か、なぜ今ガイドラインが必要なのか?
元々、CBNは、CBDに次ぐ第二世代カンナビノイドとして登場。
当初はCBDよりも強いリラックス効果を持つと注目され、人気はうなぎ上り。
一部ではグレー視されていましたが、HHCやTHCHといった、より尖った(半)合成カンナビノイド商品が上陸し、CBNはすっかり影が薄れてしまいました。
ところが2024年〜2025年にかけて、そういった(半)合成カンナビノイド商品は次々と行政に規制される中で、CBNに再評価されるようになりました。
一方で、CBN商品に起因するとされる救急搬送や体調不良の事例がチラホラ。
世間からは「ほら見たことか」「何がチルだ」といった冷ややかな声も現れ、行政も「これは看過できない」と、そろそろ腰を上げるのでは?というムードが漂い始めます。
『全国大麻商工業協議会(全麻協)』は、CBD食品ガイドライン発表からわずか2ヶ月足らずで、今回のCBN専用の「附則」を発表。
このスピード感は、業界側が外圧による規制ではなく自らのルール設計によって対応しようという先手の想いの表れです。
・科学的にわからないことが多いからこそ、今できる安全策をとる
・消費者に「こう使えば安心」という情報を提供する
・将来的に法律ができても、スムーズに接続できるように地ならししておく
まさに、無法地帯だったカンナビノイド食品市場を、「秩序ある市場」へと転換しようとする業界の決意表明といえるのです。
骨子1:明文化による“事故防止”と“信頼確保”
CBNは体感を得やすい人とそうではない人の差が大きいとされます。
しかも、酒や薬と一緒に摂取すると、思わぬ副作用があるかもしれません。
そこでガイドラインでは、下記のようなリスク認識と対応原則を明文化しました。
・少量からの摂取を推奨:作用のピークが1〜3時間後に現れる特性を振り返りつつ、再摂取制限を記述
・併用の注意喚起:アルコールや安定剤との同時摂取による中枢神経系への影響を強調
・未成年・妊婦・病気持ちへの提供制限:リスク不確定領域への明確な線引き
・本人の意思に反した摂取の禁止:倫理的観点からのハラスメント防止
単なるマナーではなく「予測不可能な副作用リスクをどう予防的に対処するか」という問いに対する業界の一つの回答です。
骨子2:エビデンスがないことを前提に動く制度設計
実はCBNについては、科学的なエビデンスはまだまだ確立されていません。
「適正量って?」「副作用は?」「長期影響は?」など、すべて未知数です。
だからと言って放置すれば結局、一番しんどい目に遭うのは一般の消費者です。
そこで業界は「未知数だけれども、ここまでなら安全ではないか?」という範囲をみずからで示す。
これは「不確実性の中で動くための制度」です。
骨子3:ソフトローとしてのつなぎ役
確かに今回のガイドラインは、法律ではなく強制力もありません。
しかし無視はできない存在となります。
消費者に「これを守っている企業なら安心かもしれない」と思ってもらえる。
行政と話すときに「こういうガイドライン出しています」と答えられる。
万が一事故が起こったとき、「我が社はガイドラインに従っていました」と主張できる。
これがソフトローの力です。
いわば「法律になる前の練習問題」みたいなものです。
事業者が今からやるべき3つのこと
ではCBD事業者はこれから何をしたらいいのでしょうか?
エビデンスをかき集める
大学や病院と組んでデータを取る。
海外の事例も要チェック。
事故やクレームは全部ログに残す
ロット番号、摂取量、体調変化……何でも記録。
これが未来の安全資産になります。
役所と喧嘩するのではなく、話ができる関係をつくる
ガイドラインがその会話の入り口になります。
こうしたガイドラインは、市場と消費者に対し、以下のような影響を及ぼすことが予想されます。
市場と消費者への影響とメリット/デメリット
「法律になる前の練習問題」としてのガイドラインは、下記を踏まえて、慎重な運用が求められます。
メリット
・遵守する企業への信頼が高まる
・消費者が自身で商品選びできる判断材料が増える
・行政から信頼されやすくなる
デメリット
・「ガイドライン守ってる=絶対安全」といった誤解が広がると危ない
・各社が目立とうとして、安全性を強調しすぎる競争になってしまう
・科学的な裏付けが弱い製品でも、ガイドラインを守っていることが正当性の根拠と誤認される恐れがある
科学的不確実性の中で制度をつくるという挑戦
『全麻協』によるCBNガイドラインは、科学的裏付けがないからこそ、「今、何か取り組まないといけない」と立ち上がった、業界の行動宣言です。
技術革新が進む現代、CBD業界に限らず、AI、サプリ、ゲノムなど、あらゆる分野が不確実性を抱えています。
そしてこの挑戦は、今後AI、サプリ、ゲノムの政策立案者や多様なプレイヤーが参照すべき、不確実性を前提にした「法律になる前の練習問題」の新しいモデルとなるでしょう。
ガイドライン全文(『全麻協』CBN含有製品に関するガイドラインカンナビノイド食品ガイドライン(2025年6月6日版)
下記に、2025年6月6日時点で発表された内容を原文そのままで掲載します。
細部の改訂・更新がある場合は、全麻協公式サイトをご確認ください。
1. 趣旨
目的
・CBN含有食品(以下、「CBN製品」という。)の利用に伴うリスクを低減し、消費者一人ひとりが自身の状況に応じて適切に判断できる環境を整備する。
・科学的エビデンスが確立していない段階において、業界が自主的に予防措置を講じることにより、消費者保護と市場の透明性向上を図る。
対象
・日本国内で流通、販売、または提供されるCBNを含む食品を主な対象とする。
・主として20歳以上の成人利用を想定するが、未成年(20歳未満)への提供を制限する取扱いを推奨する。
位置づけ
・本ガイドラインは、関係法令を遵守したうえで、業界として一層の安全確保を行うための自主的な基準を明文化したものである。科学的知見や法改正の進展に伴い、必要に応じて改定する。
2. CBNに関する基本的なリスク認識
科学的知見の不足
・CBNの長期的影響や具体的な摂取基準に関して、国内外で確立したコンセンサスが得られていない。エビデンス不足を踏まえ、慎重な使用を推奨する。
個人差の大きさ
・カンナビノイドの作用は年齢・体質・他の薬剤との併用などによって大きく異なる。特に多量摂取した場合、強い眠気や注意力の低下、めまいなどが起こる可能性がある。
アルコール等との併用リスク
・アルコールや精神安定剤など中枢神経に作用する成分との同時摂取は、酩酊状態や意識障害を増大させる恐れがあるため、避けることが望ましい。
妊娠・授乳中の利用
・妊娠・授乳中の影響は不明な点が多く、胎児や乳児へのリスクを否定できない。妊娠中・授乳中の利用は控えることが望ましい。
使用者の意思に基づかない摂取を回避する
・CBNの含有について、摂取する本人が認識しないまま摂取させる行為は、倫理的観点から強く禁止されるべきである。
3. 推奨される使用方法および留意点
少量から開始する
・初めてCBN製品を使用する場合は、表示された推奨量よりも少ない量から試し、体調に問題がないかを確認する。
・短時間で多量を摂取しないよう十分注意する。
ピーク作用を考慮する
・摂取後1~3時間ほどで血中濃度が上昇し、ピークに達するとの報告がある。追加摂取を行う場合は、十分に間隔を空け、過剰摂取を避ける。
アルコールや他の薬との併用を控える
・同時摂取によって作用が増強し、健康被害を生じるリスクが高まる。
・医薬品を服用中の者は、事前に医師・薬剤師へ相談したうえで利用の可否を判断する。
運転や危険作業を行う前後は使用しない
・眠気や集中力低下により、交通事故や労働災害が発生するおそれがある。
・作業予定がある場合は、十分に時間を空ける。
他人への強要を禁止する
・個人差が大きいため、他人に無理やり摂取させる行為は避ける。特に未成年への提供は控えることが望ましい。
4. 禁止または注意が必要なケース
20歳未満への提供や販売
未成年に対しては、身体への影響や依存リスクが高まる可能性がある。20歳未満には提供しない方針を徹底することを推奨する。
妊娠・授乳中、重度の基礎疾患を有する場合
・胎児・乳児への安全性が確認されておらず、利用を控える。心疾患・精神疾患など基礎疾患を持つ者は、担当医と相談したうえで判断する。
短時間での多量摂取
・一度に多量に摂取すると、吐き気や動悸、強い眠気などの症状が現れることがあります。体調に異変を感じた場合は、摂取を中止し、速やかに医師または医療機関にご相談ください。
ハラスメントにつながる行為
・勧誘や飲用の強要など、他者の意思を尊重しない行為を厳重に禁じる。事業者・利用者ともに互いの意思を尊重した取扱いを行うことが望ましい。
5. 本ガイドラインの見直しと運用
科学的知見の蓄積に応じた改訂
・国内外の研究成果および行政方針を踏まえ、必要に応じて本ガイドラインを改訂する。
・新たな情報が得られ次第、当協議会ウェブサイトなどを通じて周知を図る。
関係法令および他団体との連携
・大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法、薬機法、食品衛生法、景品表示法など関連法規の遵守を前提とする。
・必要に応じて行政当局や関連業界団体との連携・情報共有を行い、市場の健全性を確保する。
自主的な事故報告と安全管理
・CBN製品の使用に関連して重大な健康被害や事故が確認された場合には、速やかに状況を確認のうえ、原因の特定(製品ロット・使用状況等)を行い、必要に応じて関係機関へ報告する。
・事業者はリコール体制の整備や消費者向けの相談窓口設置など、安全管理を徹底する。
6. 参考資料
[1] National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. The Health Effects of Cannabis and Cannabinoids. (2017) [2] Stone, M. et al. Potential sedative and relaxant effects of cannabinol. Journal of Cannabinoid Research, 14(2): 45–52. (2022) [3] American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Marijuana and pregnancy: Clinical guidance. (2019) [4] Huestis, M. Cannabinoid Pharmacokinetics in Humans. Journal of Analytical Toxicology, 45(3): 187–195. (2021) [5] Health Canada. Policy on Cannabis Products with Non-Psychoactive Cannabinoids. (2022) [6] Colorado Department of Public Health & Environment. Regulations concerning hemp and cannabinoid products. (2022)注:上記の文献やデータは例示的なものであり、最新情報の収集に努める必要がある。
終わりに
本ガイドラインは、CBNを含む製品の安全な取り扱いと適切な流通を促進する目的で、全麻協が自主的に策定した指針です。
事業者、販売者、利用者の皆さまには、本ガイドラインの趣旨をご理解いただき、より安全で適切な対応に努めていただきますようお願い申し上げます。
今後も研究動向や社会的状況を注視し、新たな情報が得られ次第、ガイドラインの見直しや情報共有を継続して行ってまいります。
\コンプライアンス・広報・マーケティング面の信頼性アップ/