国際カンナビスビジネス会議『ICBC 2025バルセロナ』~後編

本記事は国際カンナビスビジネス会議『ICBC 2025バルセロナ』~前編の続きになります。

会議内容

大麻の遺伝子

パネリストたちは、育種の科学的側面から、知的財産とブランド戦略における遺伝学の役割、そして新しい品種に求められる生体分子化合物(バイオアクティブ成分)やその他の特性について語ってくれました。

種子の遺伝と品種の扱いは、国や時代によって法律や制度が大きく異なります。

その点について詳しく説明してくれたのが、『SWISS AGRONOMIC SERVICES』の創設者、ケビン・ピコー(Kevin Picot)氏です。

彼によれば、EUでは大麻の品種そのものに対して「特許」は原則として認められておらず、その代わりに、「植物育成者権(Plant Variety Protection,=PVP)」によって知的財産が保護される仕組みが採られています。

この植物育成者権の認可と管理は、『CPVO(欧州共同体植物品種庁)』が担っており、ピコー氏はその制度の概要や申請プロセスについても丁寧に解説してくれました。

BUBBLEBAGS』のマーカス・リチャードソン(Marcus Richardson)氏は、品種におけるテルペンの重要性、そしてそのフレーバープロファイルについて、自身の大切なメンターであり、最近逝去されたサム・ザ・スカンクマン(Sam the Skunkman)氏との思い出を交えながら語ってくれました。

<参考文献>
▶︎ 『BUBBLEBAGS』公式サイト

リチャードソン氏は、サム氏から学んだ概念、アントラージュ効果(各成分が相乗的に働き、全体としての効果を高める現象)を通じて、フレーバーの豊富さが、品種の人気に大きく影響していることを説明してくれました。

一方、『THE TALMAN GROUP』のジャスティン・トム(Justin Tombe)氏は、現在のファーマカナテック(Pharma/医薬品 × Cannabis/大麻 × Technology/技術)の分野における動向を共有。

彼によるとテルペン、たとえばリナロール、ミルセン、カリオフィレンといった成分のクラスター解析が進んでおり、それだけテルペンの複雑性と機能性が高度に注目されていることを示していると述べました。

EUにおける大麻最新情報

登壇したのは『WHITNEY ECONOMICS』のエコノミスト、ボー・ホイットニー(Beau Whitney)氏。

彼のプレゼンテーションでは、需要と供給の市場データをもとに、スペインおよびEU全体の大麻市場の将来予測が紹介されました。

冒頭では、まずアメリカの医療大麻市場の経済成長について触れ、億単位の売上や取引額が次々と提示され、会場を驚かせました。

しかしその一方で、供給過多による価格下落や、政策の一貫性のなさなど、アメリカ市場の課題も率直に指摘。

そのようなアメリカの「猪突猛進型の成長モデル」に対し、EUはスピードは遅いものの、制度と市場がじわじわと順応しながら成長する「適応型アプローチ」をとっていると分析しました。

特に注目されたのはスペイン市場です。

大麻関連のツーリズム産業の伸びが顕著で、海外からの訪問者が急増。

カンナビス・ソーシャル・クラブなどが地域経済に与えるインパクトは大きく、バルセロナ市内だけで1億ユーロ規模の経済効果が生まれているとホイットニー氏は述べました。

これは、投資家にとって極めて重要なデータであり、逆に言えば「オーバーツーリズムを懸念して外国人観光客を制限すべきではない」との明確なメッセージも発信されました。

プレゼンテーションの締めくくりとして、投資対象としての比較では、「成長率は遅くとも欧州の大麻市場の方が、アメリカよりもリスクが低く、投資先として魅力的」だと提言。

そして、業界関係者へのアドバイスとしては、以下の4点が挙げられました。

・大麻教育の充実採用
・パートナー構築の慎重な判断
・製品における各種認証の取得
・市場と顧客に関するデータ分析の徹底

大麻業界におけるメディアとマーケティング

本テーマでモデレーターを務めたのは、大麻メディア『CannabisNow』の創設者、エウヘニオ・ガルシア(Eugenio García)氏。

<参考文献>
▶︎ 『CannabisNow』公式サイト

彼はまず、業界全体に今なお根強く残る大麻への偏見について触れ、そうした環境下では、メディアとしても従来のマーケティング手法だけでは通用せず、独自の戦略や発信手段が不可欠だと語ります。

とはいえ、彼がもっとも強調したのは、「最終的にはパッションとクリエイティビティがすべて」ということ。

メディアをしている彼の目線は、短期的に、「1ドル払ったら1ドル返ってくる」ような見方ではなく、ブランドが築く「ウェルネスの世界観」そのものに投資すべきだと提言します。

そうすることで、将来振り返ったときに、「いまこの瞬間が、歴史の句読点になっていた」と気づくはずだと、未来への視座を持ったマーケティングの重要性を訴えました。

また、他の登壇者からも、「人とのつながるアクセスをどう広げていくか」「大麻カルチャーの普及と共感の広がりが不可欠」といった、実務経験に基づく意見が活発に交わされました。

なかでも印象的だったのが、『MJ_UNIVERSE』の創設者であり、ネットワーキングの担い手でもあるリサ・ハーグ(Lisa Haag)氏のコメントです。

<参考文献>
▶︎ 『MJ_UNIVERSE』公式サイト

彼女は、大麻業界における協会設立、ミュージアム設立などの文化的貢献に積極的に関わっており、そこから見える産業と文化の橋渡し役”としてのメディアの役割について、自身の経験をもとに語ってくれました。

続いて、各自の大麻業界でのサバイバル経験に話題は移ります。

Ispire』を運営するルナ・ストワー氏はアメリカ出身で、10代の頃から大麻のブリーディング(品種交配)やハーベスト(収穫)、そしてアクティビズムに関わってきた経験から、自身の視点を共有しました。

「アメリカでは大麻リテラシーが高く、日常的に一般人同士が情報交換をしたり、自らリサーチを行う文化がある。それはとてもラッキーなこと」と語る彼女。

その上で、

「Edutainment(エデュテイメント)=教育とエンタメの融合」という考え方を取り入れたマーケティングを、もっと積極的に展開すべきだと提案しました。

大麻ジャーナリスト/アクティビスト/YouTuberとして知られるマイケル・クノット(Michael Knodt)氏は、InstagramやYouTubeなどのソーシャルメディアにおける大麻関連投稿の制限について、自身の経験をもとに語りました。

具体的には、「ブランドそのものの紹介」と「製品プロモーション」の間にある微妙な規制の違い、バンされる投稿の傾向、そして捨てアカウントの活用、ハッシュタグや@メンションの注意点など、実践的なノウハウが紹介されました。

しかし、彼が何よりも強調したのは、こうした言論統制やプラットフォーム側の規制に適応するのではなく、それを変えていくことこそが本質的に必要だという姿勢でした。

戦略的パートナーシップの構築

今年の『ICBCバルセロナ』、最後のセッションテーマは、「Forming Strategic Partnerships」(パートナーシップの戦略的構築)です。

変化と競争が激しさを増す大麻業界において、パートナーシップは単なる手段ではなく、成功の鍵そのものです。

しかもその形は一つではなく、多様な専門性、人材、メンターシップ、そして互いに価値を与え合える関係性が求められています。

パネリストたちは、成功をどう測るか、そしてどんな危険信号に注意すべきかについて、それぞれの視点から実践的な知見を共有しました。

GRÜNHORN GROUP』のアレクサンダー・リーグ(GRÜNHORN GROUPのAlexander Rieg)氏は「弁護士」「プロモーター」「セールス担当」「ライセンス保有者」など、パートナーの形が多様化している現状に触れたうえで、「もはや“パートナー”というより、ネットワーキングの質と広さが重要だ」と語りました。

単なる契約関係ではなく、関係性そのものを構築する場としてのネットワークの意義が強調されました。

これに対して、教育と医療の現場で患者支援や医療大麻の研究を行うスロベニアの『GRÜNHORN GROUPRESEARCH NATURE INSTITUTE』のボジダール・ラディシッチ(Božidar Radišic)氏は、学生や医療従事者との連携こそが、自身にとってのパートナーシップだと語ります。

医療大麻などの大麻リサーチなどで患者を助ける仕事をしている教育と医療の世界にいることで、学生や医療従事者とのパートナーシップについて語ってくれます。

また彼は現在、世界初となる「大麻の種子を火星に送るスペースプロジェクト」に取り組んでおり、この挑戦には、従来とはまったく異なる新しいタイプのパートナーシップが必要だと強調しました。

お金だけではない、この産業を共に創造していく一人として、皆が協力して設定したゴールに向かうべきであり、そのためにEUはもっとEU委員会に、ロビー活動をすべきと締めくくりました。

こちらは会議会場の外の光景です。

今回のバルセロナ開催では、ベルリンで開催される『ICBC(国際カンナビスビジネス会議)』とは違い、小規模な見本市が併設されたコンパクトな会場構成でした。

<参考文献>
▶︎ 『ICBC』公式サイト

別室では終日ネットワーキングが行われ、参加者同士の交流が活発に行われていました。

B2B向けのイベントという特性上、一般来場者はおらず、参加者はすべて大麻業界のプロフェッショナル。

そのため規模は小さくとも、むしろその分、深い対話と専門的な関係構築が実現できる濃密な空間となっていたのが印象的です。

まとめ

最後に、『ICBC』のプロデューサーであるアレックス・ロジャース(Alex Rogers)氏にもお話をうかがいました。

バルセロナでの『ICBC』開催は、今回で7回目にあたるとのこと。

お話を通して、『スパンナビス(Spannabis)』をはじめとする多様な大麻関連イベントと共に、その他の様々な大麻活動と共に、『ICBC』がスペインや欧州の大麻文化、大麻産業の振興に寄与していることがうかがえました

数年後、数十年後に今を振り返れば、確実にこの活動も、大麻の歴史の句読点となり、未来への線へとなっていくのだと思いました。

そして願わくば、日本にも、ビジネス産業、文化振興共に、オープンで質の高いカンファレンスが育ってくれることを期待しています。

それでは、また次のレポートでお会いしましょう。

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