日本の厳格すぎるTHC残留基準値0.0001%、海外の専門家はどう見ているか?

2024年5月30日、日本のCBD業界に激震が走りました。

大麻取締法改正に伴い、厚労省が提案したTHC(テトラヒドロカンナビノール)残留基準値案が、国内外から猛烈な反発を浴びています。

この基準値案は国際基準と比べて驚くほど厳格で、日本のCBDビジネスを根底から揺るがす可能性があるからです。

この記事では、この問題の背景・新基準値案の詳細・海外の専門家を含む、国内外の反応、そして今後の展望について詳しく探ります。

目次

大麻取締法改正の背景と経緯

2023年12月6日、日本政府は、医療用大麻の解禁を視野に入れつつ、大麻の乱用防止を目的に「大麻取締法」と「麻薬及び向精神薬取締法」の一部を改正しました。

改正の背景は、以下の通りです。

大麻草の医療や産業における適正な利用を図るとともに、その濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するため、

①大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とするための規定の整備
②大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備
③大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備等の措置を講ずる

改正法では、大麻の定義を見直し、従来の部位規制(成熟した茎と種以外はNG)からTHC含有量に基づく規制が導入されました。

そして2024年5月30日、厚労省は、新たなTHC残留基準値案を提案。

その衝撃的な内容がこちらです。

・オイル(常温):10ppm(0.001%)
・飲料:0.1ppm(0.00001%)
・その他、食品や原料などのCBD商品:1ppm(0.0001%)

これらは、欧州食品安全機関(EFSA)が示した基準を参照していますが、実はその基準は2015年の古い値を採用。

現在の欧米諸国と比較して信じがたいほど厳しいものです。

・EU:多くの国で0.2%〜0.3%のTHC含有量を許容
・アメリカ:連邦レベルで0.3%以下のTHC含有量を許容
・スイス:1%未満のTHC含有量を許容

また、従来、日本ではTHC残留基準値は明文化されていなかったものの、実質、200ppm(0.02%)のCBD商品が一般流通していました。

これと比べても、その厳しさは際立っています。

原料のTHC残留基準値が1ppmと解釈されるのも、明らかな矛盾点です。

海外の専門家を含む、国内外の痛烈な批判

この厳格な基準と矛盾は、科学的根拠や国際基準からかけ離れており、国内外のCBD事業者や専門家から強い疑問の声が上がっています。

科学的根拠の欠如

多くの大麻・CBDの研究が示すように、0.3%未満のTHC含有量では精神活性作用はほとんどなく、健康リスクも極めて低いです。

実際にこれだけ広く流通しているにもかかわらず、特に健康被害等の報告は出ていません。

ちなみに日本では6月25日、有機フッ素化合物(PFAS)の摂取許容量が設定され、これがヨーロッパ基準の60倍にも及ぶ「緩すぎる」基準として決定されました。

実はこの決定でもパブコメ(整備中の政令案に関する国民の意見募集)が募られまして、大多数を占めた反対意見が無視されました。

一方では、国民の健康を保護するという名の下に過度に厳しいTHC基準を設け、他方でPFASに関しては国際基準よりも甘い基準が設定されています。

この矛盾は、政府の政策決定プロセスにおける透明性の欠如と、科学的根拠に基づかない決定が行われていることを示す代表例と言えるでしょう。

重大な貿易上のハードル

現在、日本で流通するCBD商品の原料は、ほぼ輸入に依存しています。

今回、提示された非現実的に厳格なTHC残留基準値は、国際基準からから大きく逸脱し、重大な貿易上のハードルとなります。

専門家は「日本は、みずから国際市場から孤立する道を選んでいる」と警告しています。

健康維持・症状緩和のための利用の制限

そもそも、厚労省が示した基準ですと、現在、市場に流通しているCBD商品は、ほぼすべて再検査する必要があります。

そしてCBD商品が新基準値に適合しない商品は、市場から排除されます。

これにより、特に健康維持や症状緩和のためにCBDを利用している方が影響を受けることが懸念されます。

現在、日本で大麻由来の医薬品が明確に合法化されるのは、難治性てんかん治療に使われる「エピディオレックス」のような、限られたケースに限られています。

そのため、他の健康維持や症状緩和目的でCBDを利用している人々にとって、代替手段が非常に限られてしまいます。

偽陽性による、不当な逮捕・勾留の増加

新基準値案のように超微量なTHCを検出するために検査感度を上げると、偽陽性のリスクも高まります。

これにより、誤って違法行為とみなされるケースが増え、逮捕や勾留が多発し、不当な取締や法的トラブルが頻発する懸念があります。

その結果、ユーザーは安心してCBD商品を利用することが難しくなるでしょう。

新基準値が与える深刻な影響

日本のCBDビジネスの壊滅

前述した通り、新基準値案が施行されると、CBD商品が新基準値に適合しない商品は、市場から排除される可能性があります。

すでに販売停止するCBDブランドや閉店を発表するCBDショップも続出しています。

この流れは、業界全体に壊滅的な打撃を与え、雇用の喪失や関連企業の倒産を引き起こす懸念があります。

これは、推定240億円規模の市場が、一夜にして消え去ることを意味します。

さらに、厳しい基準による市場の縮小は、CBD関連の投資や研究開発を完全に停滞させる恐れがあります。

グローバル市場でCBDビジネスが急成長を続ける中、日本だけが取り残される形となり、将来的な国際競争力の低下は避けられません。

CBDユーザーの生活の質を直撃

新基準値案は、特に健康維持や症状緩和のためにCBDを利用しているユーザーに甚大な影響を与えます。

選択肢の激減

多くのCBD商品が市場から姿を消し、ユーザーの選択肢が極端に制限されます。

なお、下記は、あるCBD利用者のパブリックコメントに投稿した意見書です(ご本人の許可を得て掲載)。

線維筋痛症と他にも疾患のある患者です。CBDを約4年使用しています。

CBDに出会った当初は、食事も身体の機能的に食べられない状態と、全身の痛みと眠れない状態でした。

今でも寝込んでしまうことがあり、そのような状態の時にはブロードスペクトラムCBDオイルを舌下で使います。

しばらくすると、座位の状態になれ、また動くことができます。

痛み止めは約4年間、一度も使用せずにCBDで対応しています。

病院で痛み止めの注射と服薬もしていた頃もあります。線維筋痛症は現在難病指定されていません。

その為、助成などもなくとても困る疾患です。

通院にも時間がかかり、痛み止めが欠かせなかった数年前よりも、自宅で具合の悪い時に対応出来ることや、食品として今は摂れるので自分で工夫することも出来ます。

そうしていくうちに、医療費の負担も減少していきました。

海外には線維筋痛症とCBDに関しての研究もあり、全身の複雑な症状に対して効果もあり実感しています。

痛み止めの薬だけではなく、このような選択肢も残していただきたいです。

このように、多くの利用者が健康維持のためにCBDを使用しており、厳格な基準によって選択肢を失うことが懸念されています。

価格高騰

下記が問題となり、厳格な基準に適合するための製造・検査コストが増加。

価格に転嫁されるだけでなく、下記が問題となります。

・そのような抽出や分析能力を持ったサプライヤーや検査機関は、どれだけあるのか?
・どのように探すのか?
・仮にあったとして、その費用負担はどのくらいか?

品質低下

THC残留基準値が厳格化されると、実質、流通が高純度のアイソレート商品に限定される可能性があります。

アントラージュ効果が失われ、健康維持・症状緩和を期待するユーザーへの恩恵が著しく低下する懸念があります。

安全性への疑問

多くの検査機関が安定的に新基準値案のような微量のTHCを検出することは極めて難しい状況です。

一部の事業者が、極端な基準に適合するため、抜け道としてCOAの偽装、闇市場への流通が増え、適切に管理された商品が市場から締め出される可能性もあります。

かえって保健衛生上の問題は、深刻化するのではないでしょうか?

パブリックコメントとCBD業界の必死の抵抗

厚労省は、5月30日〜6月29日まで、大麻取締法/麻向法関連のパブリックコメントを実施しました。

さっそく「声を上げろ!」という号令の下、CBD業界関係者や医療専門家、一般市民から5,000件以上の批判的意見が殺到しました。

すでにパブコメは締切られ、寄せられた意見がどのように取り扱われるか?は、厚労省の判断に委ねられます。

そして、新基準値は、早ければ10月1日にも施行されます。

CBD販売者主体として初の業界団体「全国大麻商工業協議会(National Hemp Industry Council)」の発足

6月22日、大麻の新規制に関するパブリックコメント(公開意見)募集をきっかけに、CBD販売者主体として初の業界団体が発足されました。

理事には業界内で事業年数が長く、影響力のある事業者が名を連ねます。

業界の健全な発展を支援するため、次のような活動内容に取り組みます。

活動内容

1.大麻商工業に関わる経済活動を行う会員間の連携と意見の集約
2. 大麻商工業の健全な経済振興と持続的成長に向けた推進活動
3.保健衛生上の危害の防止活動
4. 会員等の指針となる計画及び規範を作成する事
5.大麻商工業の実情及び意見等を内外に紹介し、理解を促進する事
6.トラブル発生時の再発防止策の懸案、関連省庁との情報連携
7. 関連産業団体間の連携による共通課題提起と解決案の協議と実施
8. 最終消費者の安全性等に関するデータを蓄積
9.消費者保護の観点より、団体独自のガイドラインを制定運営する事

短期的には厚労省に対し、THC残留基準値の是正に関する意見書提出に向けて、急ピッチで準備を進めています。

消費者の怒りの声:署名活動と実名での訴え

6月17日には、オンライン署名サイト『Change.org』では「私達からCBDを奪わないで下さい!」と題して、CBDの使用継続を願う有志一同による署名活動が開始しました。

そして、短期間で数万人もの署名が集まりました。

またCBDユーザーが実名で、新基準値案の見直しを訴える動画が拡散され、多くの人々の共感を呼んでいます。

これらの動きは、CBD商品を日常的に利用しているユーザーが生活の質の低下を懸念し、不安と怒りを感じている証拠です。
普段、なかなか声を上げることが少ない日本人が、行政に対して柔軟な対応を求め、引き続き健康のためのCBD商品が手に入るように声を上げています。

政治家の動き

一部の国会議員も、この問題の深刻さを認識。

衆議院議員の務台俊介氏や参議院議員の秋野公造氏、浜田聡氏らがSNSを通じて、基準案への強い疑問を呈しています。

海外の専門家からの緊急提言

国際的な専門家は、日本政府に対して以下のような緊急提言を行っています。

【カンナビノイド研究の世界的権威】イーサン・ルッソ博士

何十年も続けられてきた選択育種にもかかわらず、微量で測定可能なTHCを生成しないCBDのみを生成する大麻品種を開発することはできておらず(遺伝子組み換え技術、高価、危険な副産物を含むため、使用すべきではありません)、THCの閾値を非常に低く設定すれば、各カンナビノイドアイソレートの製造においても、技術的・毒性の問題が発生します。

【統合医療界の重鎮】アンドリュー・ワイル博士(アンドリュー・ワイル統合医療センター)

日本政府におかれては、提案されているTHCの閾値を再検討し、現在世界で広く認められている値(アメリカ、カナダ、オーストラリアの0.3%またはEUの0.2%など)に合致したものにすること、また、品質管理を確かなものにするための政府による合理的な監督の枠組みを制定することを強く勧めます。

【アメリカ最古の業界団体】アーロン・スミス氏(NCIA/National Cannabis Industry Association)

厳しい閾値は、人間に精神作用を及ぼすTHCの用量をはるかに下回っています。しかし、非常に少数の合法製品メーカーしかこれらの基準を満たすことができず、ヘンプ製品の需要が増え続けるため、制限は消費者をこれらの製品の違法市場に追いやる可能性があります。さらに、テストに関連する高コストと、これらの基準に対してテストを実施できるラボの不足は、詐欺の可能性を増加させるでしょう。

<参考文献>
▶︎ NCIAの意見書

【世界最大級の標準化団体】ティファニー•コールマン氏(ASTM/米国国際材料試験協会)

飲料中のΔ9-THC 0.1ppmという制限は、非常に厳格な規制であると考えられます。カンナビノイドの検出限界はASTMの限界指標に基づき、一般に0.1ppmよりも高くなると示す「バイアスステートメント」があります。0.1ppmが許容されるかどうかは不確実であり、分析の難易度が高いため、制限値以下の検出も難しい。

【カンナビノイドに特化した厚生労働省 外国公的検査機関】リチャード・サムズ博士、ライアン・ベローネCCO(KCAラボ)

CBDは熱や酸(例:クエン酸やアスコルビン酸、湿った空気中で自然に形成される炭酸)の条件下で[**容易にΔ9-THCに変換されるという報告**]がされています。すなわち、このような日常的に起こりうる酸触媒変換によって、CBD製品中のΔ9-THC濃度は増加する可能性があります。LC-MS/MSはそのような限界値でΔ9-THCを検出・測定できますが、これらの値が投与量や製品の許容限界値にどのように関連しているかをよりよく理解することで、提案された限界値を明確にし、規制管理のための合理的な情報を提供できます。

<参考文献>
▶︎ KCAラボの意見書

【カンナビノイドに特化した検査機関】クリストファー・フダラ博士(PROVERDE LABORATOTIES)

厳しいレベルの Δ9-THC の信頼できる分析結果を達成するための装置を装備するためには、偽装性のある構造を生み出し、市場での消費者製品の供給を制限する結果となります。さらに、提案された限度値は消費者製品の供給を著しく減少させる一方で、これらの制限が偽装 COA (分析証明書) の使用を促進させる可能性があります。

【大麻の啓発・教育の非営利団体】マーティン・リー氏(Project CBD)

提案されている値はあまりに小さすぎて、ウェルネス市場におけるCBD製品の効果を感じることができず、したがって、他の医薬品との薬物相互作用を軽減させることもできません。これにより、日本における大麻およびCBD市場には逆効果であるだけでなく、大麻草からTHCを完全に除去するのがそもそも技術的に困難であり、かつ費用面でも問題となることを考えれば、不必要かつ非現実的で不可能なのです。

なお、日本最大級のCBD業界コミュニティ『CBD部』は、下記目的で、海外団体を巻き込んだ反対表明を呼びかけており、集めた署名とコメントを厚生労働省や各国政府に提出する予定です。

結論

厚労省が示したTHC残留基準値は、日本のCBD市場に壊滅的な影響を与える可能性があります。

過剰に厳格な新基準案は、消費者の選択肢を狭めるだけでなく、健康維持や症状緩和に頼っている多くの人々の生活の質を低下させます。

さらに、国際基準から大きく乖離した政策は、日本を国際市場から孤立させるリスクをはらんでいます。

政府には、今こそ、科学的根拠に基づいた実現可能な基準を設け、日本のCBD市場の持続的な成長と国民の健康を守るための行動が求められています。