日本の新・THC残留限度値確定!業界の危機感とこれからの展望

2024年9月11日、官報で、大麻取締法改正についての施行期日および、THC(テトラヒドロカンナビノール)残留限度の確定値が発表されました。

振り返れば、5月30日に、厚労省が提案したTHC残留限度値(案)は、国際基準と比べて驚くほど厳格で、国内外から猛烈な反発を浴びました。

その後、厚労省は、5月30日〜6月29日まで、大麻取締法/麻向法関連のパブリックコメント(整備中の政令案に関する国民の意見募集)を募集。

結果的に、大多数を占めた反対意見が無視され、当初案から大きな変更はありませんでした。

本記事では、当社案への下記考察記事の続編として、新たに発表されたTHC残留限度値の確定案や、業界の反応について掘り下げます。

また、今回の基準が市場や企業にどのような影響を与えるのか、複数の事業者へのインタビューを通じて見解をまとめました。

CBD業界を揺るがす、新・THC残留限度値

大麻取締法に関する官報

官報は、日本の法令や重要な公示事項を周知するための公式発表です。

今回、確定されたTHC残留限度値と施行期日は、下記の通りです。

・油脂(常温で液体のもの)および粉末:10ppm(0.001%)
・水溶液:0.1ppm(0.00001%)
・上記以外:1ppm(0.0001%)
・施行期日:12月12日

これらは、『欧州食品安全機関(EFSA)』が示した基準を参照していますが、実はその基準は2015年の古い値を採用。

現在の欧米諸国と比較して信じがたいほど厳しいものです。

・EU:多くの国で0.2%〜0.3%のTHC含有量を許容
・アメリカ:連邦レベルで0.3%以下のTHC含有量を許容
・スイス:1%未満のTHC含有量を許容

パブリックコメントでの多くの反発に対して、当初案から、分類名や原料にあたる粉末の限度値変更など、じゃっかんの変更が加えられるにとどまりました。

従来、日本市場では200ppm(0.02%)のTHCを含むCBD商品が流通していましたが、この基準は大幅に厳しくなりました。

THC残留限度値比較表

新・THC残留限度値に対する業界の反応

日本のCBD業界にとって、今回のTHC残留値の確定は大きな節目となります。

これまでは曖昧だった規制が明文化され、国内市場の透明性や消費者の安全性を確保される一方で、不必要なレベルの厳しさゆえ、多くの事業者が困難に直面することが予想されます。

また、間接的に、健康維持や症状緩和のためにCBDを利用しているユーザーに甚大な影響を与えることになります。

この背景には、厚労省が薬物乱用防止の観点から、大麻(麻)に対して強い警戒感を持っており、THCの微量な残留すらも許さないという方針が根底にあります。

今後、多くの企業は、新基準に対応するために商品の成分や製造方法の見直しを迫られるでしょう。

また、消費者への適切な情報提供や教育も、ブランド信頼性の向上に必要です。

これを受けて、業界団体や検査機関、CBDブランド、CBDショップ、業界コンサルタントなど、各方面のキーパーソンにご協力いただき、THC残留限度値の確定案に対する意見や展望を独占インタビューしました。

そこからうかがえたのは、怒りや困惑に、使命感やネバーギブアップ精神が入り混じった、葛藤の交錯。

それらの意見を元に、このTHC残留限度値が、どのような影響を業界や市場にもたらすかについて探っていきます。

CBD業界団体の声「1ppmなどという限度値で、誰も検査したことがない」

全国大麻商工業協議会(National Hemp Industry Council:略称全麻協)の須藤晃通氏

国内初のCBD事業者団体『全国大麻商工業協議会(National Hemp Industry Council:全麻協)』の代表理事、須藤晃通氏は、下記のように語りました。

須藤氏:5月30日に発表された厚労省の新・THC残留限度値(当初案)を受け、業界内での意見交換会(228名参加)が開催されました。

しかし、各社の意見があまりにも大きく異なり、業界として統一基準を早急に確立する必要性を感じ、発足したのが当団体です。

新・THC残留限度値への第一印象は、「0.1ppmとか1ppmなどという限度値で、誰も検査したことがない」です。

これをクリアする原料が十分に存在するのか?今、取り扱っている商品が適合できるのか?という懸念が、業界全体で広がっています。

おそらく、新・基準をクリアできる商品とそうでない商品が現れるため、施行後は、商品バリエーションが狭まる可能性があります。

『全麻協』としては、検査機関と連携して、変性や検査のブレの検証を行い、エビデンスをもって、厚労省により現実的なTHC残留限度値を提言していくつもりです。

合わせて、表示ラベルや検査方法、輸入、関連法規(薬機法、景表法、特商法ほか)に関するガイドラインや通報窓口の設置を進め、業界の健全化に向けた包括的な取り組みを進めていきます。

検査機関の声「わずかな検査結果のばらつきが、問題視される厳しさ」

anresco LABORATORIESの神津大地氏

1948年創業、アメリカのサンフランシスコに拠点を置く検査機関のパイオニア『Anresco Laboratories(アンレスコラボラトリーズ)』の日本支社長、神津大地氏は、下記のように語りました。

神津氏:「これはグローバルスタンダートとはかけ離れたTHC残留限度値が出たものだ」というのが第一印象です。

検査機関として、この規制に対応する難しさを誰よりも痛感しています。

そもそもTHCは、大麻草に微量でも含まれている成分であり、製造過程でどれほど精密に除去しても、完全にゼロにするのは極めて困難です。

特に、今回のように厳しい基準が設定されると、同じバッチや製品でも検査結果にばらつきが生じ、微量のTHCが検出される可能性があります。

このわずかなばらつきが問題視されることで、追加コストや製品の廃棄リスクが高まれば、CBD事業者にとって事業の存続に直接影響を与えることになります。

確かに一時的に検査需要が高まっているものの、国内外の事業者の参入意欲が低下し、国内のCBD市場は縮小する懸念も感じています。

現在、私たちは、当社も委員を務める、業界団体『カンナビノイド検査機関連絡協議会』を通じ、厚労省に科学的なエビデンスに基づく様々な提言を行っています。

具体的には、製造過程や検査のばらつきを考慮し、多少の誤差を許容するバッファや、再検査のプロセスの導入などの仕組みの提案です。

私たち検査機関は、CBD業界の未来を支える重要な役割を担っています。

正確で信頼性の高い検査はもちろん、行政と事業者の橋渡し役となり、より持続可能な規制環境を整えるため、今はあらゆる手段を尽くして、この問題に取り組んで参ります。

CBDブランドの声「私たちは、道を閉ざされた」

エンドカのロゴ

2013年に、デンマークの研究者が立ち上げ、医療機関にも商品供給するCBDブランド『Endoca(エンドカ)』の日本法人代表、廣田拓郎氏は、下記のように語りました。

廣田氏:私たちのように、カンナビノイドの相互作用「アントラージュ効果」を重視するブランドにとって、今回の規制はブランドの存在意義を揺るがすほどのインパクトでした。

THCを限りなく完全除去を目指す過程で、他の有効成分まで失われるリスクがあり、その結果、商品力が大幅に低下する可能性があります。

だからと言って、提供するCBD濃度を薄めたり、アイソレート商品に切り替えて、基準に適合させるという選択肢は、私たちのブランドポリシーに反します。

そこで、お客様が期待する品質と効果を維持することを最優先に考え、議論を重ねた結果、12月12日以降、『Endoca』日本法人としての活動を一時休止することに決定しました。

正直なところ、今回の規制によって、私たちは、「ブランドが毀損された」という思いが強く残ります。

世界中でCBD商品が医療や健康分野で広く受け入れられている中で、なぜ日本だけがこの流れに逆行した規制を導入するのかと、海外メーカーから多く質問を受けています。

市場全体は、一時的に縮小することは避けられません。

しかし活動休止中も、私たちは復活の道を模索し続けます。

医療分野での活用を念頭に置き、医療機関向けのプログラムや、特定臨床研究の枠組みの中で、再起をはかっていくつもりです。

そして再びお客さまに、自信を持って商品をお届けしたいと思っています。

<参考文献>
▶️ エンドカジャパン

CBDショップの声「まったくクレイジーな規制。今は耐え忍ぶ時期」

日本でいち早く、2016年からCBD商品を取扱続けてきたCBDショップ『NSPV』のオーナー、萩原基氏は、下記のように語りました。

萩原氏:CBDに限らず、さまざまな産業に対する日本の行政の動きや保守的な体質を考えれば、今回の規制に驚きはありませんでした。

正直、予想の範囲内ですが、いまだに世界の流れに逆行した、クレイジーな判断をくだすことに、半ば呆れた気持ちが強いです。

もちろん、私たちCBDショップへの影響はすでに現れています。

一部の製造元からは、事業撤退や高濃度CBD商品の終売の連絡があり、取扱商品の入れ替えや縮小は避けられません。

もし商品ラインナップが低濃度CBDばかりになれば、これまでの高濃度CBD商品に信頼を寄せていたお客さまが満足できず、ユーザー離れが懸念されます。

閉店するCBDショップの話も増えましたね。

今は耐え忍びながら、次のステップへの準備の時期になるでしょう。

ただ、必ずしも悲観的な話だけではありません。

新規制発表後のタイミングで大手製薬会社のCBD事業参入のNEWSもありました。

CBDの認知度が高まり、ユーザーが安心して商品を手に取る機会が増える可能性には、期待しています。

その時、生き残るのは、本物のお店だけ。

当店はカウンセラー型の接客で、ヒアリングにこだわり、お客さまのニーズにあった使用方法をしっかりご案内し続け、この困難を乗り越えていきます。

<参考文献>
▶️ NSPV

CBDコミュニティの声「誰のための規制なのか?」

CBD部の中澤亮太氏

日本最大級のCBD展示会やコミュニティを運営する『CBD部』の代表、中澤亮太氏は、下記のように語りました。

中澤氏:健全な市場や公衆衛生を守るためには、確かに適切な規制が必要です。

しかし、規制が過度に厳しすぎると、新たな合成カンナビノイドやブラックマーケットでの取引が増えたり、これまで誠実に取り組んできた事業者も不正を行わざるを得ない状況に追い込まれることも考えられます。

かつてのアメリカの禁酒法のような悪法が、どのような結果・混乱をもたらしたかは明白。

新・THC残留限度値は、「誰のための規制なのか?」という疑問が拭えません。

CBD業界全体の健全な成長を促進するためには、規制と市場ニーズのバランスを見極めることが重要なはずです。

私たち『CBD部』としては、今回の規制は、業界の存続に関わるものと捉えています。

数年後、振り返った時、誇れるステップとなるように、厚労省に規制値の見直しを訴えかけていくと共に、業界を巻き込んだ勉強会やイベントを通じて、情報共有と支援に力を尽くすつもりです。

<参考文献>
▶️ CBD部

CBDコンサルタントの声「持続的かつ健全に発展していくために、品質管理システム(QMS)の導入が不可欠」

CJC ADVISORY NETWORKの浮田慎士氏

大麻合法国カナダに拠点を置き、最新の知見とノウハウに基づいたCBDビジネスコンサルティングを行う『CJC ADVISORY NETWORK(シージェイシーアドバイザリーネットワーク)』の代表、浮田慎士氏は、下記のように語りました。

浮田氏:現在の技術をもってすれば、新しいTHC残留限度値に適合した製品を製造することは十分に可能です。

しかしながら、これほど厳格な基準になると、THCの除去を含む製造工程において、カンナビノイドやテルペンといった有効成分が一部減少する可能性が高まることは避けられません。

加えて、大麻にはカンナビノイドやテルペン以外にも、フラボノイドやフェノール類など、製品の効果に影響する成分が多く含まれています。

これらの成分も同様に減少する恐れがあり、結果として複数の成分が相互作用する「アントラージュ効果」が弱まり、製品の効果やユーザーへの魅力が低下する懸念があります。

一方で、今回の規制の明確化により、これまで法的に不透明だった部分が解消され、海外や国内の大手企業や新たな参入者の増加、さらにサプライチェーンの整備が進むというプラスの側面も期待されます。

業界全体が持続的かつ健全に発展していくためには、参入の活性化に加え、国際的な基準に沿った品質管理システム(QMS)の導入、検査体制の強化、そして精密な製造プロセスの構築が不可欠です。

私たち『CJC ADVISORY NETWORK』は、厳しい規制を遵守しながらも、堅実な製造プロセスと検査基準を確立し、日本の消費者が安心安全なCBD製品を手にできる市場の実現に向けて、全力で取り組んで参ります。

<参考文献>
▶️ CJC ADVISORY NETWORK

新・THC残留基準値に対するCBDユーザーの反応

私達からCBDを奪わないで下さい!
▲ オンライン署名サイト『change.org』〜私達からCBDを奪わないで下さい!

CBDユーザーの間でも、新・THC残留限度値に対する強い反発が広がっています。

多くのユーザーが、規制が生活や治療に悪影響を与えると懸念。

6月17日に、オンライン署名サイト『Change.org』で開始した署名活動「私達からCBDを奪わないで下さい!」では、今も署名が増え続け、9月時点で4万人以上の署名が集まっています。

下記に、寄せられたコメントの一部を抜粋して紹介させていただきます。

なんでこんな意味のない改正(改悪)がされるのだろう? 本当に頭悪い人たちが決定の場にいるとしか思えない。

私事を含め疾患等の苦しみに、藁にもすがる思いでCBDオイル等を利用させてもらって、やっと日常を繋いでいる者の希望を奪わないで下さい。命の尊厳と法律の変更をよく考えて下さい。よろしくおねがいいたします。

CBDに危険性があると言うなら、それ以外の医薬品やワクチンなどの健康被害の方が、よほど危険性が高い。もっと大きな問題に時間とお金を使うべき。
必要な処方が出来なくなるのはおかしい大麻は悪いイメージばかりで、正しく使えば体にいいという認識に変わるべき
時間、お金、体調不良の中で、やっと相性合う・効果のあるCBDオイルを見つけたのに、後出しで国から規制するのは治療している患者にとって非常に迷惑です!
今回の規制強化により、従来、役に立っていたCBD商品が市場から排除され、健康のための選択肢を失うこと。
これこそが、最大の懸念点です。

急増する撤退!2024年650億円市場の予測は覆されるのか?

CBD製品市場規模推移・予測

2023年12月、大麻取締法改正法案の成立時点では、業界の誰もが、このような厳しいTHC残留限度値を予想していませんでした。

多くの事業者がアメリカやEUの0.2〜0.3%水準を想定しており、この法改正を歓迎する雰囲気でした。

しかし蓋を開ければ、今回、確定した限度値は、目を疑うレベルの厳しいもの。

2022年には、2024年に650億円市場へ成長すると予測されたCBD業界ですが、今回の規制はこの見通しに冷や水を浴びせました。

事実、筆者が運営するCBDショップ検索サイトにも、連日閉店の報告が相次いでいます。

さらに、事業継続の道を探る事業者は、検査方法や指定検査機関の有無などが示されない、不透明な状況に戸惑いを隠せません。

「ディスティレートなどの固形原料は、どの分類になるのか?」「液体と水溶液は、具体的にどのように区別するのか?」といった、細部に関する疑問も噴出しています。

施行期日が迫る中で、アクションプランが定まらず、まさに身動きが取れない状態です。

この規制が業界に与える影響は計り知れず、業界全体に不安と混乱が広がっています。

まとめ

困惑するビジネスパーソン

今回、確定した非現実的に厳格な新・THC残留限度値は、日本のCBD業界に深刻な影響を及ぼすことは確かです。

多くの事業者が規制への対応に苦慮し、撤退や閉店、業務縮小を余儀なくされます。

さらに、国際基準から大きく乖離した限度値であり、日本を国際市場から孤立させるリスクをはらんでいます。

一方で、新・THC残留限度値が発表されたことで、遅ればせながらCBD事業者の業界団体が発足。

行政と本格的に向き合い始めました。

業界の自主規制やガイドライン策定が進み、事業者間の協力体制やエビデンス確保が強化されれば、行政との対話を通じて限度値の見直しが期待されます。

また、明確な基準は、大手企業の参入を促し、消費者の信頼が高まる動きが加速する可能性もあります。

事実、THC残留限度の確定値が発表後、9/18に日本有数の製薬会社『大正製薬』がCBD商品をリリースしました。

混乱の中でのこの動きは、驚きをもって受け止められました。

インタビューした各事業者は、いずれも長期的には市場の整備が進む可能性に期待を寄せています。

そして、嘆くだけでは問題は解決されず、規制の見直しを訴え続けながら、日本のCBD市場の発展に向けて、積極的に取り組んでいくことを強調しています。

日本は、世界で最も高齢化の進んだ国であり、生真面目で他人の目を気にする国民性もあって、ストレス大国と言われています。

健康維持に対するニーズは、年々、高まる中、CBDはその有効な選択肢として高い評価を受けています。

逆風とポテンシャルが交差する中で、日本のCBD市場が今後どのような方向へ進むのか?引き続き注目が集まります。

日本のCBD事業者は、まだまだ世界の状況を十分に理解していませんし、逆に世界も日本のCBD市場についてあまり知られていない部分があります。

私たち『CBDライブラリー』は、この2つをつなぐ情報を今後も発信し続けて参ります。

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