【丸ごと解説】カンナビノイド悪阻症候群(CHS)とは?

(当記事は、アメリカでの法律、研究に基づいて作成されています)

カンナビノイド悪阻症候群(CHS)は、大麻(麻)の慢性的な使用により、重い吐き気・腹痛・頻繁な嘔吐などの症状が現れる疾患です。

これらの症状を治療しないと、重度の脱水症状をはじめとする、他の関連疾患を引き起こす可能性があります。

カンナビノイド悪阻症候群は比較的珍しい疾患で、長期間にわたって大量の嗜好用大麻を頻繁に摂取した場合にのみ、発症するようです。

この症候群については不明な部分が多いです。

現時点では「嗜好用大麻の使用をやめることが唯一の有効な治療法である」と、研究者たちは考えています。

嗜好用大麻とカンナビノイド悪阻症候群(CHS)の概要

嗜好用大麻の使用関連の研究と同じく、カンナビノイド悪阻症候群に関する研究もわずかしかありません。

主な原因は、アメリカやその他の国含め、嗜好用大麻が数十年にわたり法律で禁止されていたためです。

さらに、この症状が初めて報告されたのが2004年と、まだ20年も経っていません。

カンナビノイド悪阻症候群の研究は、特に少ないのです。

現在の研究では、エンド・カンナビノイド・システムの一部(特に腸に存在するエンド・カンナビノイド受容体)が過剰に刺激されることによって、カンナビノイド悪阻症候群が発症すると考えられています。

これは、大麻を慢性的に使うことによって起こります。

嗜好用大麻は、THC(テトラヒドロカンナビノール)をはじめとするカンナビノイドが、全身のエンド・カンナビノイド受容体に結合することで効果を発揮します。

一般的には、カンナビノイドが受容体に結合すると高揚感が得られたり、気分や睡眠・食欲などの感覚に変化が生じたりします。

カンナビノイドと脳内の受容体の相互作用は、多くの場合、吐き気を和らげる効果があります。

一方で、嗜好用大麻に含まれるカンナビノイドは、腸内のエンド・カンナビノイド受容体にも結合し、相互作用します。

これにより、脳内における作用とはまったく異なる作用が生じることがあります。

その代表例が、吐き気です。

研究者たちは、脳内のカンナビノイドが吐き気を抑える一方で、腸内のカンナビノイドが実際に吐き気を引き起こすと考えています。

大量の嗜好用大麻を長期にわたって摂取すると、腹痛に加えて、激しい吐き気や嘔吐が定期的に起こることがあります。

大麻の使用頻度が低い場合や、短期間の使用によってカンナビノイド悪阻症候群を発症することはありません。

大麻を日常的に摂取したり、高濃度の商品を使ったりして、エンド・カンナビノイド・システムに長期的または強烈な刺激を与えると、カンナビノイド悪阻症候群を発症する可能性が高くなります。

カンナビノイド悪阻症候群の有病率についての疫学的な研究はほとんどありません。

しかし、現在行われているいくつかの研究では、効果の強いTHC優位株の使用が、大麻関連の障害の増加を招いている可能性を示唆しています。

大麻関連の障害には、大麻使用障害や、カンナビノイド悪阻症候群などがあります。

カンナビノイド悪阻症候群(CHS)の症状

カンナビノイド悪阻症候群にまつわる最近の話題として、”scromiting”と呼ばれる症状が、特にポップカルチャーにおいてよく注目されています。

“scromiting”は、”scream”(叫ぶ)と”vomiting”(嘔吐する)を組み合わせた混成語です。

ファクトチェック(事実確認)サイト『Snopes.com』によると、この言葉がメディアで最初に登場したのは、英国のタブロイド紙『Metro』の、カンナビノイド悪阻症候群に関する2017年の記事の中です。

この記事では、カンナビノイド悪阻症候群患者は、叫び声と嘔吐が同時に起こるという、異常な組み合わせの症状を体験すると伝えています。

この症状が一般的かどうかは定かではありません。

しかしカンナビノイド悪阻症候群の主な症状が、激しい吐き気と嘔吐であることを考えると、カンナビノイド悪阻症候群患者が嘔吐しながら叫ぶことは、理論上あり得るかもしれません。

また、この記事は、一般的な症状を説明しているのではなく、非常に珍しい症状をセンセーショナルに伝えている可能性もあります。

信頼できる医学研究によると、カンナビノイド悪阻症候群の主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 激しい吐き気
  • 周期的な嘔吐と腹痛

嘔吐は、カンナビノイド悪阻症候群の最も危険な症状です。

カンナビノイド悪阻症候群関連の嘔吐は、つわりの症状に似ていますが、1日に20回も発生することがあり、はるかに深刻です。

このような激しい嘔吐は、脱水症状・電解質の低下・体重減少・意識障害などを引き起こすことが多いです。

カンナビノイド悪阻症候群の症状は、より深刻な他の障害を引き起こす可能性があります。

多くのカンナビノイド悪阻症候群患者は、激しい吐き気と嘔吐の発作の後、無症状の期間が続き、症状が再発するまでに数ヶ月かかることもあります。

医療関係者は、カンナビノイド悪阻症候群には以下の3つの主要なステージがあると認識しています。

前駆期

これはCHSの初期段階です。

大麻使用者の多くが、腹痛や早朝の吐き気を感じ始めます。

通常、この段階では、激しい嘔吐は起こりませんが、患者は吐き気や嘔吐に対する恐れを抱き始めるかもしれません。

一般的に、この段階では普通に食事をすることができます。

前駆期は数カ月、あるいは数年続いた後、第2段階に移行することがあります。

悪阻(過剰嘔吐)期

この段階での主な症状は、継続する吐き気と激しい嘔吐です。

また、ほとんどの症例で腹痛が継続します。

嘔吐の症状は、特に重度の脱水症状に陥って、電解質が極めて多く失われた場合には、医師の診察を必要とするほど重度になることがあります。

悪阻期の患者は、吐き気と嘔吐の結果、食事の量が減り、体重減少や、さらなる脱水症状を引き起こすことがあります。

大麻の使用を止めることが、悪阻期を止めるための、唯一の証明された方法です。

高温のシャワーや入浴によって症状の一部が短期的に緩和されることから、この時期の患者は、入浴やシャワーを強迫的に行うこともあります。

回復期

通常、患者は大麻の摂取を中止してから24~48時間以内に症状が治まり、食欲も回復します。

しかし、大麻の摂取を再開すると、症状が再発します。

また、ストレス・感染症・月経などの特定の要因によって、回復期から前駆期に戻ることもあります。

カンナビノイド悪阻症候群(CHS)の治療

大麻の使用を完全に中止する以外に、カンナビノイド悪阻症候群に対して一貫した効果が認められる、または確立された治療法はありません。

カンナビノイド悪阻症候群によって引き起こされる吐き気については、市販薬か処方薬を問わず、吐き気止めの治療は、通常役に立ちません。

しかし、多くの患者は、熱いシャワーやお湯に浸かったり、カプサイシンのクリームを体に塗ることで、なんとか吐き気をやわらげています。

カンナビノイド悪阻症候群患者は、高温での入浴を強制的に行うことがあります。

ある研究によると、約60%のカンナビノイド悪阻症候群患者で、高温のシャワーや入浴によって症状が緩和したと報告されています。

いくつかの症例研究では、ロラゼパムやアルプラゾラムなどの、ベンゾジアゼピン系薬剤によりカンナビノイド悪阻症候群の症状の一部が緩和されることが示されています。

その他の治療法としては、点滴による大量の水分補給や、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤の使用などがあります。

しかし、大麻の使用を中止することが、この症状の長期的な治療法として唯一証明されたものです。

大麻使用者が激しい嘔吐を経験した場合、脱水症状や胃の炎症の治療のために入院が必要になることがあります。

電解質の減少は、けいれん・腎不全・ショック・脳腫脹などの重い合併症を引き起こす可能性があり、それぞれの治療が追加で必要となります。

カンナビノイド悪阻症候群は、これらの合併症による死亡の一因となる可能性があります。

大量の大麻を長期的に使用していて、激しい嘔吐が1日以上にわたり頻繁に起こる場合は、直ちに大麻の摂取を中止し、医療機関に連絡するか、救急外来を受診して治療を受ける必要があります。

カンナビノイド悪阻症候群(CHS)の診断

誤診されることも多いとはいえ、カンナビノイド悪阻症候群の症状があり、吐き気や嘔吐が続く原因が大麻の他に思い当たらない場合は、医師の診断を受けた方が良いでしょう。

医師は、正確な診断を下すために、あなたの大麻の使用頻度や量を調べることがあります。

大麻の使用については、医師に正直に話しましょう。

日常的な大麻の使用や高濃度のTHCは、カンナビノイド悪阻症候群を引き起こす可能性が高いです。

その中では、他の原因を除外するための検査が必要になることがよくあります。

現在のところ、カンナビノイド悪阻症候群を他の病気と区別する唯一の確実な方法は、患者の症状が、熱やカプサイシンにどのように反応するかを観察することです。

また、カンナビノイド悪阻症候群の症状が妊娠時のつわりに似ていることなどから、他の原因による嘔吐の可能性を除外するために、妊娠検査・貧血や感染症の血液検査・薬物検査・尿検査などを行うこともあります。

カンナビノイド悪阻症候群関連の症状に対し、カンナビノイド悪阻症候群の診断が不可能で、費用の高い画像検査は通常は必要ありません。

場合によっては、手術が必要となる閉塞などの深刻な疾患があるかどうか判断するために、腹部CTスキャンやX線検査を受けるように指示されることもあります。

85%近くの医師が、エンド・カンナビノイド・システムや、嗜好用大麻が脳や身体に及ぼす影響についての教育を受けていません。

カンナビノイド悪阻症候群に対する医師の認識が乏しいため、医療機関での診断や治療が困難な場合があります。

また、周期性嘔吐症候群(CVS)もカンナビノイド悪阻症候群と似た症状を引き起こすため、確定診断を下すのは、やや難しいと言われています。

カンナビノイド悪阻症候群(CHS)の診断基準

以下の基準は、カンナビノイド悪阻症候群の正確な診断と症状の管理につながり、不必要で高額な医療検査を減らす上で役立ちます。

カンナビノイド悪阻症候群の診断には、次のような特徴を持つ、慢性的な大麻使用者であることが必須条件です。

  • 激しい吐き気、嘔吐、胃痛の症状を特徴とする周期性の嘔吐を経験しており、その周期は平均して3日間である。
  • 体重が10ポンド(約4.5キログラム)以上減少している。
  • 周期的な嘔吐の間も比較的気分が良く、普通の食事が可能である。
  • 従来の制吐剤(吐き気止め)や鎮痛剤(痛み止め)には反応しないが、熱い風呂やシャワー・カプサイシンクリームの塗布により症状が緩和される。
  • 症状の原因となる、明らかな器質的疾患(臓器の炎症や、体の組織の破壊などによって起こる疾患)がない。
  • 大麻の使用を中止すると、カンナビノイド悪阻症候群の症状が出なくなる。

吐き気や嘔吐が続く嗜好用大麻使用者は、カンナビノイド悪阻症候群かどうかの診断を受けることを検討してください。

それまでは、高温のシャワーやお風呂に入ることで、短期的に症状を緩和することができます。

カンナビノイド悪阻症候群(CHS)の予防

カンナビノイド悪阻症候群の症状が出る人と出ない人がいる理由は、完全にはわかっていません。

THCの一般的な吐き気止めの作用が、腸内の吐き気を引き起こす作用に比べて弱いために、カンナビノイド悪阻症候群を発症しやすい体質の人もいるかもしれません。

また、大麻の長期使用によりTHCが蓄積されて、カンナビノイド悪阻症候群のリスクが高まるかもしれません。

大麻の常用者、長期使用者、大量使用者の中には、カンナビノイド悪阻症候群の症状が起きない人もたくさんいます。

しかし、カンナビノイド悪阻症候群の発症までには何年もかかることがあります。

カンナビノイド悪阻症候群のほとんどの症例は、嗜好用大麻を月に約20日摂取している場合に起こることが示されています。

これらの患者の約75%は、1年以上大麻を常用しています。また、カンナビノイド悪阻症候群患者の70%以上は男性です。

カンナビノイド悪阻症候群を予防する最善の方法は、大麻を適度に使用することです。

高用量、頻繁な使用、高濃度のTHCが含まれる商品は、CHS発症の最大の危険因子です。

よくある質問

カンナビノイド悪阻症候群は危険なの?

患者が大麻の摂取をやめずに症状を放置した場合、カンナビノイド悪阻症候群は危険になることがあります。

特に、カンナビノイド悪阻症候群の主な症状である腹痛や吐き気・嘔吐が悪化して重度の脱水症状になった場合が危険です。

重度の脱水症状になると、カンナビノイド悪阻急性腎不全とよばれる、腎不全の一種に陥る可能性があります。

この場合、重い合併症を引き起こしやすく、最悪のケースでは死亡する可能性もあります。

カンナビノイド悪阻症候群の症状が出た場合は、すぐに医師に相談し、大麻の摂取をすぐにやめることが重要です。

カンナビノイド悪阻症候群は、一生治らないの?

カンナビノイド悪阻症候群自体は永続する病気ではありません。

長期間の大麻使用によって発症するものであり、通常、大麻の摂取をやめればカンナビノイド悪阻症候群の症状は治まります。

しかし、大麻の使用を再開すると、再び発症することもあります。

カンナビノイド悪阻症候群から回復するには、どのくらい時間がかかるの?

一般的に、カンナビノイド悪阻症候群の症状は、回復期にはかなり早く治まり始め、通常は大麻の使用を中止してから1~2日以内に治ります。

完全に回復するには、大麻の摂取を完全に止める必要があります。

これがカンナビノイド悪阻症候群の唯一の永続的な治療法として証明されています。

カンナビノイド悪阻症候群の患者は、大麻を再び吸わなければ、比較的早く、永久的に回復するでしょう。

CBDは、カンナビノイド悪阻症候群の原因になるの?

カンナビノイド悪阻症候群に関する数少ない研究によると、CBDは、THCや他の多くのカンナビノイドとともに、大麻の長期使用者において実際にCHSの原因となっている可能性があります。

基本的には、どんな種類のカンナビノイドでも、長期使用はカンナビノイド悪阻症候群の発症につながる可能性があります。

The Journal for Nurse Practitioners』誌に掲載された2018年の論文では「カンナビノイドであるCBDを大量に摂取すると、胃痛、吐き気、嘔吐の症状が強くなる 」と述べています。

また、2011年に発表された別の論文は「高濃度のCBDとCBGの吐き気を引き起こす作用は、カンナビノイド悪阻症候群における重度の吐き気と嘔吐に関与している可能性がある 」と述べています。

カンナビノイド悪阻症候群になっても、大麻を吸っていいの?

いいえ、大麻の使用はやめてください。

研究によると、カンナビノイド悪阻症候群患者が嗜好用大麻を吸った場合、通常は症状が再発します。

特に、胃痛や周期的な吐き気、嘔吐が起こります。

カンナビノイド悪阻症候群を発症した場合、治療と再発防止のための唯一の証明された方法は、大麻の摂取をやめることです。

どのくらいの期間、大麻を使用するとカンナビノイド悪阻症候群が発症するの?

カンナビノイド悪阻症候群は慢性的な大麻使用により発症します。

専門家によると、カンナビノイド悪阻症候群を発症する人は、通常、1年~5年ほど大量の嗜好用大麻を定期的に頻繁に使用した後に症状が現れ始めるそうです。

もしあなたが嗜好用大麻を慢性的に使用しており、カンナビノイド悪阻症候群の症状が出ているのであれば、医師の診断を受けるべきかもしれません。

<参考文献>
ウィードマップス(weedmaps)』スニック・バーンズによるレビュー(2021年6月25日)
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