やっと!
2025年4月23日、『全国大麻商工業協議会(全麻協)』が、CBD(カンナビジオール)、CBG(カンナビゲロール)、CBN(カンナビノール)を含むカンナビノイド食品を対象とした日本初の全国ガイドラインを発表しました。
これまで日本のCBD業界では、「我が社はまっとうな事業者として取り組んでいます」と自己申告文化、いわば言ったもん勝ちの空気で事業がまかり通っていました。
透明性の担保も、第三者検証も求められていませんでした。
そこに来て満を持して発表された今回のガイドライン。
自己申告文化に一つの区切りを打つと同時に、日本のCBD市場が「選ばれる存在」になれるかどうか、世界基準で問われる時代の幕開けです。
なお、『全麻協』は、日本国内でCBDやヘンプ関連製品を取り扱う事業者を中心に構成された業界団体です。
カンナビノイド製品の安全性向上、事業者倫理の確立、業界の健全な発展を目的に、ガイドライン策定、行政連携、啓発活動を行っています。
▶︎ 『一般社団法人全国大麻商工業協議会』公式サイト
なぜ今、このガイドラインが必要だったのか?
海外と比べ、日本はどこに立っているのか?
どんな希望と課題があるのか?
本記事では、制度背景、国際比較、今後の課題を整理し、この発表の本質を掘り下げます。
※ガイドライン本文を今すぐご覧になりたい方は、目次「6. ガイドライン全文(全国大麻商工業協議会『カンナビノイド含有食品に関する自主ガイドライン』より抜粋)」からジャンプできます。
なぜ今、CBD業界にガイドラインが必要なのか?背景と意義
2024年12月、改正大麻取締法および麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)が施行されました。
これにより、THC(テトラヒドロカンナビノール)の残留限度値を超えないCBD製品は明確に規制対象外とされました。
だからといって、「CBD完全合法!やったー!」みたいな話ではありません。
微量のTHC混入による違法リスク、誇大表現や表示偽装による消費者誤認、未成年者への販売といった課題も指摘されていました。
「検査?したかも?」「表示?だいたい合ってるでしょ?」「販売?子供にも売れたらラッキー!」と言った自己都合の解釈でも成立していたのです。
行政も「本当に大丈夫なのか?」と冷めた目で見守りつつ、業界に対し「透明性向上による自浄化」を期待していましたが、そろそろ限界。
「もう各社それぞれの自己都合な解釈と申告では消費者も守れない。自浄しないと業界ごと終わってしまう」という危機感から生まれた次の一手。
それが『全麻協』のガイドラインでしょう。
注目すべきは、EU(欧州連合)のような事前承認でも、アメリカのような連邦(FDA)否認+州任せでもない、事業者による自主規制モデルである点です。
販売者自身の意思と姿勢を映す鏡になります。
『全麻協』ガイドラインとは?日本市場に与える変化
これまで日本のCBD業界では、「ヘンプエキス」といった、曖昧な成分表示、成分誤差がどれだけあってもおとがめなし、COA(成分分析書)が掲載されているサイトはごく一部にとどまっているのが実情でした。
こうした「見えない市場」を終わらせるためのインフラは整いました。
大きな前進です。
下記は『全麻協』ガイドラインの一部抜粋です。
項目 | 『全麻協』ガイドライン | 備考 |
成分表示 | カンナビノイド(CBD、CBN、CBG)表示方法の統一化 | 例:×ヘンプ成分 ◯麻抽出物(CBD含有) |
含有量 | 1回摂取量(mg単位)を明記 | 例:1回当たり○mg |
成分誤差 | 表示値と実測値の誤差は±10%以内 | 製造過程の精度がかなり重視される |
カンナビノイド成分情報 | カンナビノイドの種類(CBD、CBG、CBNなど)や由来(麻由来・合成など)を明示 | 原料ではなく、最終製品 |
使用方法および注意事項 | 妊娠中・授乳中・未成年など特定の人が使用を控える旨を表示 | |
COA開示 | パッケージにQRコード設置もしくは公式サイトで公開 | 消費者自身が検証できる仕組み |
特に、成分誤差±10%以内ルール、CBDの特性を考えるとなかなか厳しい。
消費者もCOAをQRコードで確認できるようになります。
「CBDブランドの言うことを信じて!」から「消費者自分で確認してください!」というメッセージ。
これらの基準は、従来の自己申告的な流通から、誰にでも商品を検証できるよう、「見える市場」へ進む、大きな転換を意味します。
海外と比較してわかる、『全麻協』ガイドラインの現在地
このガイドラインは、海外と比べて、どの水準にあるのでしょうか。
たとえばアメリカでは、連邦レベルではいまだにCBD食品は未承認ですが、州ごとに事情が異なります。
中でもコロラド州は、早くからCBD市場を合法化し、CBD製品に対して独自の品質基準と安全管理体制を整備してきた先進例です。
特徴的なのは、単なる合法化だけでなく、成分表示やTHC含有量規制、製品登録制度といった「リスク管理を前提とした」合法市場形成に取り組んできた点にあります。
今回、発表された『全麻協』ガイドラインは「合法的な流通を前提に、品質・安全性を自主的に担保する」モデルであり、制度設計の発想としてコロラド州に近い側面を持つため、本記事では比較対象に選びました。
項目 | 日本(全麻協) | コロラド州 |
THC制限 | 法令に基づき、ほぼゼロ(油脂製品:10ppm以下、水溶液:0.1ppm以下、その他の形態:1ppm以下) | 1回摂取量あたり最大1.75mg |
成分表示 | カンナビノイドの種類(CBD、CBN、CBG)明記+表示値と実測値の誤差は±10%以内 | カンナビノイドの種類(CBD、CBN、CBG)明記+THC含有量明記 |
登録制度 | なし | 州に登録義務あり |
年齢制限 | VAPE商品の20歳未満販売禁止 | 21歳未満の販売禁止 |
▶︎ Senate Bill 23-271(コロラド州議会)
ご覧の通り、『全麻協』ガイドラインは、成分表示、検査、透明性の水準において国際基準に肉薄しており、THC残留限度値ではより厳格な基準も採用されています。
しかし、製品登録義務や強制的な行政監視を伴わない自主規制モデルであるため、ガイドラインの実効性は、各事業者の自律的な運用に委ねられています。
なお、ヨーロッパではCBD食品はノベルフード(新規食品)扱い。
販売前に事前承認が必要ですが、 現実には、『欧州食品安全機関(EFSA)』による審査が停滞しています。
2022年時点で提出された多くの申請が「安全性データ不備」などを理由に審査中断となっており、実質的には承認されたCBD食品は存在しておりません。
グレーなまま販売が継続されているのが現状です。
『全麻協』ガイドラインの意義と今後の課題整理
評価ポイント
『全麻協』ガイドライン発表は、日本のCBD業界にとって大きな前進です。
これまで、 成分表示が曖昧でCOAが非開示だったため、消費者が自己防衛できない という「見えない市場」が放置されていました。
そこに、下記のような透明性をはかるルールを導入した意義は大きいです。
・消費者保護(成分可視化)
・真面目な事業者が報われる競争環境
・国際基準への部分的接近
今後の検討課題
しかし、制度だけでは市場を守れません。
当然、今回のガイドライン策定過程でも十分に議論されたはずですが、制度設計上、なお以下の課題が残ります。
・法的強制力の欠如:『全麻協』ガイドラインは自主規制であり、遵守義務も違反業者への排除権限もありません。コロラド州のような登録制度と行政監視を組み合わせた強制モデルに比べると、限界がある構造
・(半)合成カンナビノイドの管理には触れず:強い向精神作用を伴う、新種カンナビノイドリスクまでを包括的にカバーする内容にはなっていない
・消費者リテラシーの欠如:いくら透明性を高めても、それを判断するための消費者教育を並行して進めなければ(COAが読めなかったら)、形骸化
日本CBD市場の未来シナリオ
今回の『全麻協』ガイドラインは、自己申告だけに頼っていた時代に、一つの区切りを打ったと言えるでしょう。
しかし、もちろんまだ完璧ではありません。
そしてCBD業界の未来はガイドラインの有無だけでは決まりません。
CBD業界が次に突きつけられるのは、次の問いです。
「ルールをつくだけで満足するのか?」「それとも、透明性を武器に、信頼を勝ち取るのか?」
今回のガイドラインは、「検査もした。COAも開示した。はい、終わり!」と言った最低限を守ればいいという意識で臨めば、すぐに形骸化し、市場の信頼を得られることはありません。
逆に、「どうすればさらに消費者に理解され、選ばれる存在になれるか」を考え抜く事業者だけが、これからの市場で生き残るでしょう。
もし透明性を武器にできたら?
▼ 成分表示、COA開示が業界標準化
▼ 消費者も「確認する文化」を持つ
▼ 国際市場で「日本製CBD」への信頼が高まる
▼ 透明性を競争力にしたブランドが台頭
もし透明性を形だけ守ったら?
▼ 表示偽装やTHC混入事故が再発
▼ 消費者不信が拡大、市場が縮小
▼ 規制強化(販売許可制・事前認可制)が導入
▼ 真面目な事業者も撤退を余儀なくされる
さぁ、私たちはどちらの未来に向かうのでしょうか?
今、日本のCBD市場に突きつけられているのは、その選択です。
『全麻協』ガイドライン発表は、始まりの一歩にすぎません。
\コンプライアンス・広報・マーケティング面の信頼性アップ/
ガイドライン全文(『全麻協』カンナビノイド食品ガイドライン(2025年4月23日版)
下記に、2025年4月23日時点で発表された内容を原文そのままで掲載します。
細部の改訂・更新がある場合は、全麻協公式サイトをご確認ください。
1. 目的
本ガイドラインは、以下を目的として制定される
1.消費者の安全・安心の確保
製品の品質と安全性を確保し、正確かつ透明な情報提供を通じて、消費者が安心して製品を使用できる環境を整備する。
2.事業者の倫理的なビジネス慣行の推進
関係法令の遵守はもとより、業界自主基準に基づく高度な透明性と倫理性の実現を図る。
3.業界の健全な発展の支援
市場の信頼性向上と持続可能で公正な事業環境の形成を指針として示す。
2. 食品製品表示および製品ルールの整備
2-1. カンナビノイドを含む食品表示事項
製品の品質と安全性を確保し、正確かつ透明な情報提供を通じて、消費者が安心して製品を使用できる環境を整備する。
2-2. カンナビノイド表示方法の統一指針
CBDアイソレートの場合の記載
「麻抽出物(CBD含有)」または「カンナビジオール」
CBNアイソレートの場合の記載
「麻抽出物(CBN含有)」または「カンナビノール」
CBGアイソレートの場合の記載
「麻抽出物(CBG含有)」または「カンナビゲロール」
カンナビノイド成分の含有量
含有量は「1回当たり○mg」など、定量的で明瞭な形式で表示すること。
成分分析試験の結果と表示値の乖離を一定範囲内(±10%以内)に抑えること。
2-3. 原材料の情報開示
・使用しているカンナビノイドの種類(CBD、CBG、CBNなど)や由来(麻由来・合成など)を明示すること。
・原材料の生産国、最終加工国などのトレーサビリティを確保し、問い合わせに応えられるよう必要な情報を管理すること。
2-4. 使用方法および注意事項
・適切な摂取量・推奨使用方法を記載すること。
・妊娠中・授乳中・未成年など特定の人が使用を控える旨を表示すること。
・個人差によって体調が悪くなる可能性があること、および不調が生じた際の対処方法を明記すること。
例1)「体に合わない場合は使用を中止してください」
例2)「「眠気を伴う場合があるため、運転は避けてください」
例3)「乳幼児の手の届かない場所に保管してください」
2-5. 分析証明書(COA)の提供
製品に対応する第三者検査の証明書を公開(QRコードや製品ウェブサイト等)し、消費者が詳細情報を確認できるようにすること。
3. 安全性評価と品質管理
3-1. THC非含有または基準値以下の保証
日本の法令に基づき、違法成分(THC等)が基準値以下であることを第三者検査にて証明すること。
3-2. 食品適格性の確認
食品として利用可能かどうか、食品等輸入届出書(該当する場合)などを確認すること。
3-3. 重金属・農薬・微生物等の安全性検査
原料の供給責任
原料を販売する企業は、重金属・農薬・微生物汚染試験などを行い、安全性を担保すること。
最終製品の出荷前検査
違法成分(THC等)が含有されていないかを検査し、安全性を担保すること。
3-4. 第三者機関による試験の推奨
信頼性の高い検査機関(ISO認定など)による試験を推奨し、客観的な品質保証を行うこと。
3-5. 品質管理およびトレーサビリティ体制の構築
・製造工程での異物混入・汚染防止や、原料から最終製品までの履歴管理を徹底すること。
・有事の際に迅速なリコール対応が可能となるよう、製品回収の手順と責任者を明確にしておくこと。
4. 広告・表示における留意点
4-1. 公序良俗への配慮
過度に刺激的な表現やドラッグイメージを助長する表現は、産業および製品のイメージを損なうため慎むこと。
4-2. 医薬的効能・効果の標榜禁止(薬機法)
・NG例:「○○病が治る」「不眠症が完全に改善」「がんを治療する」など
・疾病名や治療行為を連想させる文言や画像についても十分注意すること。
4-3. 誇大広告・根拠なき優良表現の禁止(景品表示法)
NG例:「絶対効く」「業界No.1の効果」「根拠なく“最高品質”と断言」など
5. 販売における年齢制限・注意喚起
5-1. 未成年者への販売配慮
・VAPE製品は20歳未満への販売を禁止し、店舗やオンラインでの年齢確認を徹底すること。
・その他の形態のCBD製品(オイル、グミ等)についても、可能な限り未成年(18歳未満または20歳未満)には販売を推奨しないという自主基準を明記すること。
5-2. 妊娠中・授乳中の方への注意
妊娠中・授乳中の方、または持病のある方などは使用を控えるよう明記を行うこと。 例)「妊娠中・授乳中の方、またはその他の医学的な懸念がある場合は、使用前に医師へ相談すること。」
5-3. 運転や機械操作に関する注意
眠気などが生じる可能性を踏まえ、摂取後の運転を避けるよう周知すること。
5-4. 小児の誤飲防止
・チャイルドロック式容器・安全キャップを推奨し、菓子タイプ製品には一層の注意表示を強化すること。
・保管場所についても「小児の手の届かない場所に保管すること」を明示すること。
6. 保管・流通上の注意点
6-1. 適切な保管環境
高温多湿や直射日光を避け、製品の品質維持に適した温度・湿度で保管・輸送することを推奨する。
6-2. 密閉・防湿対策
開封後の酸化・劣化を防ぐため、容器の密封を保ち、輸送時の衝撃や破損を防ぐ措置を講じること。
6-3. 違法成分検出時の対応
・製品ロットの特定、事実確認、所轄官庁への報告・指導に従った適切な対応を速やかに実施すること。
・所轄官庁へ報告・相談し、その指示に従って適切な対応を行うこと。
6-4. お客様サポート
・回収専用窓口(電話・メール等)を設置し、問い合わせ対応を行うこと。
・必要に応じてSNSやECサイトのマイページ・通知機能等を活用し、迅速な情報提供体制を確保すること。
7. 国内既存ガイドラインとの整合性
法令の遵守
大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法・薬機法・景品表示法・食品衛生法・食品表示法・健康増進法などを常に確認し、最新の規定に基づいて運用すること。
行政機関との連携
厚生労働省・消費者庁などと連携し、カンナビノイド製品を扱う事業者団体として情報を集約・提言すること。法改正や新たな通達にも柔軟に対応すること。
8. 今後の展望
8-1. ガイドラインの継続的見直し
法制度や科学的知見の変化に応じてガイドラインを定期的にアップデートすること。
8-2. 業界・社会への啓発活動
セミナーや研修会、オンラインメディア等を通じて、事業者・消費者への教育・啓発を継続すること。
\コンプライアンス・広報・マーケティング面の信頼性アップ/