【弁護士監修】2024年、大麻取締法改正。変更点を新旧比較表で徹底チェック

2023年12月6日に国会で可決・成立し、12月13日に公布された「大麻取締法」と「麻薬及び向精神薬取締法」の一部を改正する法律案。

特に「大麻取締法」については、75年ぶりの歴史的な改正となり、名称も「大麻草の栽培の規制に関する法律」として生まれ変わりました。

この法律改正は、時代の変化と社会のニーズに応える形で行われたもので、大麻(麻)を原料とする健康成分CBD(カンナビジオール)に関わる事業者や利用者にとっても重要な意味を持ちます。

法律施行は、公布から1年以内とされているため、2024年中には施行されることになります。

日本で大麻といえば、まだまだ「ドラッグ」「依存症」に代表される、危険でダーティなイメージがつきまといますが、今後、間違いなく付き合い方は変わっていくはず。

果たしてCBDビジネスにどのような影響をもたらすのか?

また、CBD商品の利用者にとって何が変わるのか?

この記事では、法律を新旧比較しながら、その変更点を解説いたします。

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大麻取締法の異様な成り立ち

そもそも「大麻取締法」が制定されたのは、戦後間もない1948年。

GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領下で制定された法律として、大麻の栽培や利用が規制されました。

当時はまだ、代表的な大麻成分CBDやTHC(テトラヒドロカンナビノール)は見つかっておらず、大麻は日本の伝統的な産業や文化、宗教儀式において重要な役割を果たしていたため、「大麻取締法」の制定は、大きな混乱を招きました。

法律制定に関わった、元・内閣法制局長官の林修三氏も、後に「時の法令530号(1965年)」で、下記のように当惑の気持ちを振り返っています。

大麻草といえば、わが国では戦前から麻繊維をとるために栽培されていたもので、これが麻薬の原料になるなどということは少なくとも一般には知られていなかったようである。

したがって、終戦後、わが国が占領下に置かれている当時、占領軍当局の指示で、大麻の栽培を制限するための法律を作れといわれたときは、私どもは、正直のところ異様な感じを受けたのである。

先方は、黒人の兵隊などが大麻から作った麻薬を好むので、ということであったが、私どもは、なにかのまちがいではないかとすら思ったものである。

このような成り立ちの中、大麻に関するあらゆる活動を規制する法律として機能し、十分な改正もされないまま75年が経過した結果、実態にそぐわない法律となってしまいました。

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法律改正の背景

このような成り立ちの「大麻取締法」ですから、時代の変化とともに、その意義や運用のあり方について、疑問の声が上がるようになるのは当然です。

特に、国内のてんかん患者と学術団体が、海外で認可されている大麻由来の医薬品「エピディオレックス」の使用を希望し、声を上げ始めた点です。

これは、医療用途の使用すら、一切、認めなかった法律の枠組みに対して、新たな議論を呼び起こすきっかけの一つになりました。

法律を起案した厚労省によれば、法律改正の趣旨として下記3点をあげています。

大麻草の医療や産業における適正な利用を図るとともに、その濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するため、

①大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とするための規定の整備
②大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備
③大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備等の措置を講ずる

それでも、今回の改正までに要した期間75年は、遅きに失した動きです。

海外では、徐々に大麻の医学的有用性が明らかになり、医薬品としての研究が積極的に行われていました。

国連の専門機関・WHO(世界保健機関)は、1997年の報告書でCBDの有用性を認め、2020年には「大麻は最も危険性が高く医学的な価値がない」という分類から「医学的有用性は認められるが依存性が強く、取り扱いに注意が必要な薬物」へ分類を見直しました。

国家レベルで合法化・非犯罪化の動きが加速し、団体レベルでも、WADA(世界アンチドーピング規程)は、2018年にCBDを禁止物質リストから除外しています。

かたや日本は、今も芸能人が大麻所持で逮捕される報道がメディアをにぎわしています。

1954年に、3万7,317軒あった大麻農家も、この間に30軒まで減少し、神事・祭事で活用する大麻も輸入品に依存しています。

今や、国産大麻産業は風前の灯です。

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一目瞭然!法改正の主な変更点

下記に、「大麻取締法」と「麻薬及び向精神薬取締法」に分けて、主な変更点を新旧比較表でまとめました。

大麻取締法

項目
法律名 大麻草の栽培の規制に関する法律 大麻取締法
目次 追加 なし
目的 大麻草の栽培の適正を図るために必要な規制を行うことにより、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)と相まつて、大麻の濫用による保健衛生上の危害を防止し、もつて公共の福祉に寄与する なし
大麻草の定義 カンナビス・サティバ・リンネ カンナビス・サティバ・エル
大麻の定義 大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。) 大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く
栽培者及び研究者の総称 大麻草栽培者 大麻取扱者
種子又は繊維を採取する目的で、大麻草を栽培する免許 大麻草採取栽培者

第1種免許:繊維や建材・バイオ燃料・食品・化粧品の原材料採取目的
第2種免許:医薬品の原材料採取目的

大麻栽培者
大麻草を研究する目的で、大麻草を栽培する免許 大麻草研究栽培者 大麻研究者
禁止行為 栽培以外について規定なし
※ただし、麻薬及び向精神薬取締法で不正な所持、譲渡、譲受、輸入等が規制
・大麻を輸入し、又は輸出すること
・大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付す ること
・大麻から製造された医薬品の施用を受けること
・大麻に関する広告を行うこと
栽培免許対象外者 ・免許を取り消され、取消し一麻薬、大麻又はあへんの中毒者 の日から3年を経過していない者
・麻薬中毒者
・心身の故障により大麻草採取栽培者の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
・暴力団員又暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者
・法人又は団体であつて、その業務を行う役員のうちに暴力団員又暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者のいずれかに該当する者があるもの
・暴力団員等がその事業活動を支配する者
・麻薬、大麻又はあへんの中毒者
・心身の故障により大麻取扱者の業務を適正に行うことができ ない者として厚生労働省令で定めるもの
これにともない、科学的に不合理と言われていた、厳格な部位規制は緩和されます。
誤解されがちな点として、大麻草としての形状をした花や葉は、引き続き麻薬扱いとなり、自宅での個人栽培や嗜好用大麻の解禁を認めた改正ではありません。
しかし、政令で定める基準値を超えないTHCを含有した加工品は、それが花や葉由来であっても、規制対象外となります。

麻薬及び向精神薬取締法

項目
麻薬の定義 大麻が含まれる 大麻は含まれない
THCの規制 政令で定める基準値を超えない場合はOK NG(合成THC。天然THCは、明文規定ないが運用で規制)
使用罰則 7年以下の懲役 なし(大麻取締法)

自宅での個人栽培や嗜好用大麻の解禁を認めた改正ではない上、「麻薬及び向精神薬取締法」の罰則規定が適用されることになりました。

麻薬取扱者免許の無資格者は、所持していなくても尿検査等で反応が出れば処罰される可能性があります。

この方針は、海外の多くの国で見られる薬物政策の流れ(非犯罪化)とは異なり、日本国内での大麻使用は、依然として高い法的リスクを伴うことを表し、今後の課題です。

一方で誤解されがちなのは、麻薬というと、すべて違法のように感じられる点。

実は「麻薬及び向精神薬取締法」は、指定薬物の濫用による保健衛生上の危害を防止する目的だけではなく、モルヒネやハルシオンなど、その有用性を活用するため、一定の範囲内で、使用や管理方法について定められた法律でもあるのです。

今後、大麻の規制については、栽培について「大麻草の栽培の規制に関する法律」で規制し、その他については「麻薬及び向精神薬取締法」の枠組に入れて規制していこうというわけです。

有識者により、2年かけて協議


制定から改正までのタイムラインを振り返ると、2021年から2年あまり、有識者による小規模の協議を重ねて今回の改正に至っています。

法律施行は、公布から1年以内の2024年。

さらに施行日から5年後をめどに、その時の状況を踏まえて見直すことが明示されています。

1948年 大麻取締法の制定 GHQの占領下で制定
2021年 大麻等の薬物対策のあり方検討会開催 1月20日より、全8回にわたり開催
座長:鈴木勉(学校法人湘南ふれあい学園湘南医療大学薬学部長)
2022年 大麻規制検討小委員会 5月25日より、全4回にわたり開催
委員長:合田幸広(国立医薬品食品衛生研究所所長)
2023年 厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会) 1月12日に開催
大麻取締法(大麻草の栽培の規制に関する法律案)、麻薬及び向精神薬取締法を一部改正する法律案を閣議決定 10月24日
衆議院および参議院で可決 12月6日
公布 12月13日
2024年 施行 2023年12月13日から1年以内をめど
2029年 見直し 2024年の施行日から5年後をめど

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法律改正による影響

今回の法律改正を受け、CBDメディアの立場から今後の影響を考察してみました。

大麻由来の医薬品「エピディオレックス」の認可

実は、法律改正を待たず、国内で大麻由来の医薬品の治験が、すでに始まっていました。

それが『GW Pharma』社が展開する「エピディオレックス」です。

「エピディオレックス」は、特に難治性てんかんの一部であるレノックス・ガストー症候群、ドラべ症候群、結節性硬化症を対象としており、アメリカをはじめとする多くの国で使用が認可されています。

日本でも、これらの症状を持つ患者にとっての新たな治療の選択肢として、その有効性と安全性が検証されています。

これは、日本での大麻由来の医薬品の可能性を探る重要な一歩。

「エピディオレックス」の認可は、日本での大麻の有用性や認識に大きな影響を与えることが期待されます。

大手企業の参入

大麻取締法改正により、これまでの厳格過ぎる部位規制から成分規制へ移行し、さらに食薬区分や規制成分であるTHC基準値が明確化されれば、法的な不確実性が減少します。

これにより、地に足のついた成熟した経営スタイルの、大手企業が市場に参入しやすくなります。

また、これまで一部の海外企業は、日本の不透明な規制や手続きの煩雑さを嫌っていましたが、これらが解消されると、日本市場進出への動機づけになります。

CBD製品の品質と安全性が向上するだけでなく、より身近な場所で販売されたり、競争による価格低下などが予想され、CBD製品の入手が容易になります。

広告やプラットフォーム規制が緩和されれば、一気に市場が拡大し、業界勢力図も様変わりするでしょう。

国産THC含有商品の誕生

改正により、大麻政令で定める基準値を超えないTHCを含有した商品の販売が可能となる見通しです。

メディアでは、THC=ハイになる成分=悪という単純な構図で報道されがちですが、本来「CBDの効果は含有量がすべてではなく、THC含めたその他カンナビノイドやテルペン(香り成分)との組み合わせでのアントラージュ効果が重要」といった考えがあります。

もしTHCを含んだ、フルスペクトラムCBDが登場し、CBDの効果を感じる方のポジティブな発信が広がれば、市場への注目が一気に高まる可能性もあります。

第1種大麻採取栽培者免許があれば、国内での栽培・加工も可能となり、原料から国産のTHC含有商品が誕生し、海外へ輸出される日も近いかもしれません。

日本が誇る、農業やバイオテクノロジー分野の技術力の出番ですね。

新規市場の形成

産業用の大麻活用の扉が開かれることにより、これまでの食品やベイプ用途を始めとするCBDビジネスに加えて、繊維・建材・バイオ燃料など、新たな用途の商品や消費者層の形成を促します。

これらは、環境問題や持続可能性のある社会への関心が高まっていることも、追い風となります。

エコロジー、サスティナブルといったキーワードと結びつき、これまでの大麻へのイメージが変わることが期待されます。

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75年間、硬直的な解釈と運用だった状態を打破する、小さくても大きな一歩

あらためて、法律を起案した厚労省による、法律改正の趣旨をおさらいします。
①大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とするための規定の整備
②大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備
③大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備等の措置を講ずる
これまで日本で「ダメ。ゼッタイ。」という標語のもと、完全な悪として規制されてきた中、そうではない形で整理された改正であることがおわかりになるでしょう。
もちろん、海外で報道される合法化のイメージとは異なり、オランダやカナダ・アメリカ・タイのように、街中で大麻が売られたり、オープンに仲間同士で吸える世界とはほど遠い改正です。
しかし75年間、硬直的な解釈と運用だった状態を打破し、より現代の科学的知見と国際的な動向に基づいた法律にアップデートできたこと。
従来は、医療用途の使用も、一切、認められなかったことを考えると、小さくても大きな一歩。
CBDや大麻由来の製品に対するイメージも、より健康志向や生活の質を向上させる手段としての認識へとシフトする可能性があります。
今後の大麻・CBD市場が、健全で透明性の高いものになることが期待されます。

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